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これがアスペの生きる道

 ASD傾向の人間の生き方について記事を書いてほしいというリクエストがあったので、にわかに書いてみることにする。筆者は年末にかけてちょっと忙しくなっていて、寝不足で幸福感が低く、記事の執筆もストップしているが、合間を縫って投稿したい。

 さて、筆者の観測範囲にASD傾向が強いと思われる人物がいる。仮にAさんとしよう。Aさんを一言で言えば窓際アスペおぢさんである。正直、見た感じから社会不適合感が漂っていて、お世辞にも気が利くタイプとはいえない。普通の文系就活であれば全滅だろうという雰囲気である。しかし、それにも関わらず、その人は不幸には見えない。むしろ定型発達の多くの人間よりも安定して充実して人生を送っているように見えるのである。

 今回は筆者が出会った人物を例にASDの生存戦略を考えてみたいと思う。ASDには押さえておいたほうが良いポイントが複数あり、その人はそれを全て押さえているのである。あんまり詳しく書くと個人がバレかねないので一部脚色を交えるが、本筋は変質していないはずだ。それでは見てみよう。

1.有名大(特に東大京大など)を出ている。

 筆者は今までの記事で社会に出れば学歴が役に立たないと言った旨のことを繰り返し書いている。エリサラ社会の場合はMARCH辺りまではあったほうが良いが、早慶以上になると頭打ちであり、東大クラスになると肩書に負けてしまうことのほうが多い。東大出身者の思考力は目を見張るものの、それはあまり会社員の働き方では必要とされないのだ。

 しかし物事には例外がある。それはASD傾向の人間だ。彼らは少しでも高い大学に進学したほうが得である。Aさんは京大理系の出身であり、そのことが明らかに人生においては有利に働いている。

 理由は大きく分けて2つある。まずASD傾向の人間は知的障害を抱えない限り、受験勉強には若干有利である。少なくともハンデはないと思う。ASD傾向の人間が面接や営業で他人を出し抜くのは難しいので、勉強が評価される学校という環境は点数を稼ぐ格好の機会となる。日本社会ではまだまだ入口の部分で学歴が問われる場面が多いため、少しでもここで上位のポジションに行った方が良い。

より重要な理由として、ASDはコミュ力に難があるため、それに変わるキャラ付けとして学歴を手にしておいたほうが良いことが挙げられる。言ってしまえば、東大を出ていれば社会で舐められないのだ。ASD傾向の人間は何もしない状態では得体のしれない人間と思われるが、東大等を出ていると、「頭が良いけど変わった人」的なポジションに落とし込むことができ、リスクを大幅に低減することができる。これらの武器が無いと、「まともな人」と思ってもらうためのハードルは一気に上がってしまう。

 この要素の重大な欠点は同じ学歴以上の人間には使いにくいところである。ASD傾向の人間は高学歴の多すぎる環境に入ると、むしろついていけなくなって病んでしまうことがある。この辺りは運も絡むので、ケースバイケースだ。

 なお、ASD傾向の人間は理系に進学した方が良い。単純にその方が手に職に繋がるようなルートに進みやすいからだ。ただ、文系であってもやりようはあるので、無理して理系にこだわる必要は無いかもしれない。それよりも上位の大学に進学するほうが重要である。

2.資格・手に職を持っている

 学歴と被る面があるが、Aさんは一応は職に繋がるような資格を持っていて、時折その資格に関連する業務に携わっていることがある。これまたあったほうが良い要素である。ASD傾向の人間の場合、人生のどこかしらで挫折を経験することが多い。そういった事態に備えて少しでもポータブルスキルを持っておいたほうが良いだろう。資格等が無いと、不利な立場に漬け込まれてブラック企業に捕まってしまい、問題が悪化してしまうことが多い。

 Aさんの場合は筆者は詳しく聞いた訳では無いものの、明らかに人生の途中で躓いているようだ。おそらく新卒一括採用のルートから外れてしまっている。それにも関わらず良い働き口を見つけられたのは、資格のおかげあってこそだ。

 ただし、これは大企業等で働くことを否定するわけではないことは注意である。しばしば社会不適合者は会社で働けないから自営業をすべきという人がいるが、少なくともASD傾向の人間にはあまり当てはまらないと思う。例えば個人弁護士などは営業力が命であり、理由のわからない相手と接する機会も多いから、いくら国家資格でもASDに向いているとはあまり思えない。理想を言えばある程度企業体力のある大組織で自分の居場所を作れるような状態が良い。

 これは組織で重宝されるような手に職を持っている状態が一番実現しやすい。まさにAさんは特定の分野に関してはかなり高度の知見を持っていて、余人を持って替え難いところがある。もちろん本当に替えが効かないわけではないのだが、組織に貢献していることは確かなので、何の問題もないのである。

3.理解のある職場の存在

 ぶっちゃけASD傾向の男性にとってこれが一番重要な要素である。というか、ASD傾向の男性の場合、理解のある職場にありつければ全ての問題が解決すると言っても過言ではない。ここで言う理解とは「特別な配慮」とか障害者雇用というレベルではなく、単に自分の能力が発揮できて、持続可能な働き方が可能という意味である。どんな変わった人でも、仕事で安定した収入を得ていれば、特に問題とはされないのである。ASDの男性は昔から大勢存在してきたし、彼らは単に変わった人以上の認識はされていなかったのだろう。

 この条件を満たすには、職場で能力を発揮できるという条件と、その職場がASD傾向の人間に対して寛容であるという2つの条件を満たす必要がある。いくら手に職が活かせると言っても、ジョブローテで営業や管理職を強制されるような環境は理解のある職場とは言えないだろう。派閥対立や激しすぎる出世競争が存在する職場もあまりオススメできない。公務員はしばしば安泰だという神話があるが、筆者はあまり賛同できない。重要なのは潰れないことではなく、具体的な業種だからだ。公務員であっても調整業務に充てがわれればASD傾向の人物は辛いだろうし、公務員の場合は民間企業よりも融通が効かないことが多いから、居場所を見つける難易度も高い。

 Aさんの場合は、出世ルートとは縁遠いかもしれないが、無理やり営業をさせられたり、管理職として調整業務を行うことを避けられている。ここで手に職の存在が行きてくる。専門性がある場合はその専門性を極めることが職業的成功なので、社内政治や部下の人数はあまり関係が無い。この点、文系総合職の場合は管理職としての成功以外の職業観が欠けているので、ASDの人間にはあまり魅力的ではないだろう。

 この辺りの間合いは業界や社風によって規定されることが多いだろう。体育会系至上主義の会社や、ジェネラリスト性をあまりにも重んじるような会社はASD傾向の人間にとっては地獄である。ASDの場合は営業職・企画職・ケア労働といった分野を少しでも避ける必要がある。そういった意味では最近のジョブ型の進展はASD傾向の人間にとって明確に追い風ではないかと思っている。

4.会社の外での活躍

 これはASD傾向の人間特有ともいえないのだが、Aさんは資格や手に職の関連で、社外の場所で論文を発表するなどもしている。こうした会社内の序列にとどまらない活躍の場があると強いだろう。

 ASD傾向の人間の場合、集団内の序列を上げようとしてもなかなかうまく行かないことが多い。これはスクールカーストを考えても明らかである。普通の文系総合職の場合は社内の評価が重要なので、社外での活躍の場は基本的に存在しない。一方、何かしらの専門性を持っている場合は評価の場所が社内というより業界となるため、ASD傾向の人間にとっては比較的有利となる。

 また、良いことなのかは分からないが、Aさんはどうも政治集会等に参加しているらしく、他にも活動場所はあるようである。

5.妻子の存在

 結婚がマストかどうかは分からないが、ASDでかなり社会適合能力に難を抱える人物の場合、家庭形成まで到達できれば明確に勝ちと言っても良いだろう。ASD傾向の場合はルーチンの生活にこだわる傾向があるため、結婚が嫌という人もいるだろう。そういった人に関しては結婚はマストではない。

 Aさんはどう見てもモテるタイプには見えないが、結婚して子供が要るらしい。おそらく結婚はかなり遅かったと思われる。明確にデータがあるわけではないのだが、ASD傾向の男性はかなり晩婚なのではないかと思われる。ASD傾向の男性はいわゆるモテとは縁遠いものの、年齢が増して来ると同年代の女性の市場価値が下がってくる一方、安定した稼ぎさえあれば男性はそこまで忌避されないため、釣り合いが取れるのである。

 やはり妻子があることの効用は大きい。老後の孤独を回避できるし、人生の展開は得られるし、なにより社会的にまともな人として見られやすい。

6.包容力のある実家

 これは理解のある職場に次いで重要な要素かもしれない。ASD傾向の人間は人生のどこかしらで難を抱えることが多いため、実家の助けを借りる必要性は高いだろう。必ずしも太い必要はないが、ある程度の包容力は必要である。

 包容力には経済面だけではなく、人間関係も含まれる。親との関係が悪かったり、そもそも実家が崩壊している場合、ASD傾向の人間は助けを求める先が無くなってしまう。

 Aさんは詳しく聞いた訳では無いものの、小学校から私立校の出身なので、おそらくある程度の実家の包容力はあるのではないかと思われる。

7.サードプレイス

 Aさんは趣味の活動にも積極的で、土日は仲間と集まって楽しんでいるようだ。筆者はAさんの私生活の写真を見た時があるのだが、コミュ障どころか、もはやパリピのような雰囲気だった。うらやましい。。。

 こういった場所は職場ほどの高度な緊張感は求められないため、ASD傾向の人間にとっても過ごしやすい場所となるだろう。むしろ普段は職場で不遇な立場である分、自分らしくいられる場所は大切なのかもしれない。

8.性格の良さ

 Aさんは非常に性格が良く、優しい人柄である。これは意外に(?)ASD傾向の人間の生存戦略として重要である。

 ASDに限ったことではないが、何かしらの不利な形質を持っている人間は、普通の人以上に性格の良さが問われると考えて良いだろう。やはり、一度人間性に疑問符が付けられてしまうと、人間は相手の悪いところを探すようになるので、ハンデのある人間は不利である。筆者の周囲にセクハラ癖のあるASD傾向の人間がいたことがあるのだが、筆者は彼をヤバいヤツとしか思えなくなってしまった。

 別にASDに限ったことではなく、全ての人に言えることなのだが、人前では威張ったり、マウントを取ったり、悪口を行ったりする行為は慎むべきである。セクハラや犯罪行為は問題外だ。

まとめ

 ここまでAさんの生態を元にASD傾向の人間の生存戦略について書いてみたが、こうして冷静に眺めてみると、Aさんはコミュ障社会不適合者どころか、単なるハイスペである。しかし、実際のAさんは本当にガチアスペで、到底サラリーマンとしてやっていけるタイプではないのだ。

 このことは、ASD傾向であってもそれが社会的失敗とイコールではないことを示している。ASD傾向の男性にとって最重要なのは安定して稼げる職場にありつくことであり、そこさえ満たせばあとは付いてくる。そこに必要なのは学歴・資格・手に職といったアイテムである。どれか1つがマストということではなく、役に立つアイテムは多いほうが良いというスタンスである。これとは別に、包容力のある実家や性格の良さといった項目も関わってくる。妻子ある身にまで至ったら明確に勝ち組ではないかと思われる。

 Aさんは人生の途中で困難を抱えながらも、能力を適切に活かしたことで、仕事・家庭・趣味と社会での居場所をうまく確保することができた。ここまで来ると定型発達の多くよりも上かもしれない。人生の手札が悪くても、手持ちのカードをうまく切ることができれば、十分満足感のある人生は送れるということかもしれない。

おまけ

 単なる筆者の趣味である。平成レトロは良い。


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