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ナチュラルボーンチキン!!

金原ひとみ氏の新刊「ナチュラルボーンチキン」を発売日に購入し、早速読了。(作風が好きではないとか、設定が毎回似かよってるとかブツクサいいつつ、ただのファン)

もともとアマゾンのオーディブルで先行発売されており、私はオーディブルは未加入なのと、やはり本は耳からではなく、目で読みたいタイプなので、読めずにいたのだが、単行本で発売との事で、これで金原氏の作品は多分コンプリートした事になる(だからもやはただのファ…)

本作もまた金原節炸裂の「らしい」小説ではあったのだが、近年の彼女の作品の中で、私はダントツで一番好きだった。金原作品ではあまり涙を流さない私だが、本作のラストは、うるるとしてしまった。

バツイチの一人暮らし45歳、地味なルーティンを繰り返すだけの浜野文乃と、ホスクラに通い、自由きままに生きる若い同僚平木直理(ひらきなおり)、その彼女を介して出会う「キチンシンク」というそこまでメジャーではないけれど長く活動しているロックバンドのボーカル、「かさましまさか」との出会い。金原氏の都会的で若々しい感性が生かされた「らしい」設定で、ニヤニヤしてしまった。

彼女の作品あるあるで言うと、傍から見るとそこそこ恵まれている、なんならリア充じゃね?と思われる主人公の、とにかく生きづらい、苦しい、ぐるぐるもやもやした感情を爆発させるタイプの話が多く、その爆発力の凄さや表現の凄さには毎度「さすが」とため息つくものの、そのリア充っぷりにいまいち感情移入できないケースが個人的に多いのだけど、今回の主人公はちゃんとした過去の出来事や理由をもとに、地味なルーティーンを愛し、そこから逸脱するのを恐れているのがわかる。そんな彼女の心を溶かしていくのが、同年代のバンドマン「かさましまさか」である。ゆっくりと、彼女の生活に彼が介入していき、ルーティンは狂っていくのだけれど、それは彼女にとって必要な事で、この二人の微笑ましく穏やかな関係性がとても素敵だった。
「彼になら殺されてもかまわない」的な感情が湧く関係性って、大抵の場合は「共依存」とか「情熱的な大恋愛」「本来なら好きになってはいけない相手」的なイメージだけど、二人はそうではない。そうではないけれど「別に殺されても良いかな。ネギを切る包丁が今私の方を向いても、それで良いのかも」なんて思えてしまう、でも絶対に彼はそんな事しないとわかっている関係性、なんだか良いなと思った。読み終わる時、ちょっぴりさみしい、もう少しこの二人のやりとりを眺めていたいなあなんて気持ちになったのは、金原作品としては珍しい気がする。初期作品のような痛々しさや過度な性描写もなく、近年の彼女らしい比較的読みやすい作風なので、金原作品が初めての人にもおすすめできると思う。

ところで、近年の金原作品は、グルメ小説的要素がかなり入っていると思う。かつて「AMEBIC」で徹底的な拒食を(書いてる間、本人も拒食症に近かったらしい)、「ハイドラ」で噛み吐き症候群を書いていた頃と比べると彼女も精神的に落ち着いたのだろうか。いずれにせよその頃の彼女の食描写は全く魅力的ではなく、「ああ、この人本当に酒には興味あっても食には興味ない人なんだな、でもそれでこそ金原ひとみだよな…私とは真逆だがそこがかっこいいなあ…」なあんてこっそり思っていたのだが、昨今の彼女の食描写は、結構良いと思う。登場人物達が舌鼓を打っているのが伝わってくるのだ。まあ「孤独のグルメ」が好きな人だから、今はグルメには普通に興味あるのかも。


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