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夏の思い出 四国のスーパースター その1

この一年間、複数のアプリで、大変複数のメンズの皆様にお会いしてきたもののこの人好き、一緒にいたい!と思えたのは、振り返れば彼だけである。
何度入退場を繰り返し、ご新規様詐欺を働いたかわからない東カレで7月に彼とマッチした。


■ふーま君 外コン 2個下

「こんにちは!ふーまです!よろしくお願いします!」
私のプロフィールからご新規マークが消えて、まあ登録だけでもだらだらしておくかーと半分放置していた東カレで、彼からいいねがやってきた。
2個年下。外コン。四国出身。院卒。身長もそれなり。悪くない悪くない。
写真、、は顔をはっきり判断できるものは少ないが、大丈夫そう。
また写真で言えば、キャンプで焼いたお肉を丁寧にカットして、真ん中のお肉を立てて美味しそうに見せる小細工をしてあるものが目についた。結構見せ方・写し方への美的感覚がある人なのでは、と思う。よく見たら他の写真も構図にこだわってるっぽいぞ。

いいねを送り返すと、すぐに彼からメッセージがあった。ふーま君の趣味だというカラオケについて多少の面白くもないメッセージをやり取りした後、よければ飲み行きませんか?と早めにお誘いがあった。
ちんたらメッセージをやり取りするのに疲れ始めていた私は、早めにお会いできるのはこれ幸い!と平日の夜に会う約束を取り付けた。

19時に北千住で!と言ってお店は一瞬で予約してくれた。
(ふーま君はいつだって勢いがいい。)
彼は北千住は何度も訪れており、美味しいお店の名前をいくつか知っているようだった。
満を持して当日、仕事は定時で終わったのでゆっくり向かう準備をしているとふーま君からメッセージが入っていた。
「早めについちゃいました笑笑」
まじか。場所は相当こちらに歩み寄ってくれたので、お待たせするのは申し訳ない。
「え!では私も今から向かいますね!」
約束の19時まで時間はあったが、別にこちらもやることはないし早めに合流しよう。
正直微妙に早めに合流したところで何をするのか知らないが、わざわざ連絡よこしたということはもしかして何かプランがあるのかもしれない。
急いで向かいながらメッセージをやり取りして、北千住駅近くのコンビニの前集合ということになった。しかし、、私急いできた割にコンビニの前で結構待たされてるなあ、しかもどの方向から来るのかわからないなあと、不自然にならない程度にキョロキョロしながら待っていた。
そこへ、スポサン・かりゆしに大きなリュックを背負った、ゆるめのメンズが現れた。
ふーま君である。
「こんばんは!mさん?行きましょうか!」挨拶もそこそこに彼は歩き出した。はははい。しかし私の衝撃はその場に置き去りになっていた。

だ、だだだだ、ださい!!!

仕事終わりと聞いていたが、ラフすぎる。ここは沖縄じゃない。その柄のかりゆしはどこで売っているのか。アポ1回目でそのファッションで現れるとは正気の沙汰ではない。
こっちはそれなりに毎回初めましての時は「もしかして運命の相手に会うかもしれないから」くらいの心持ちで身なりには気を遣っているのだ。今日だってワンピースだ。しかしそのリュックはなんだ。中身が入っていないのか、べっこべこではないか。だったらリュックで来るな。
・・・これは2回目お会いすることはない。一目見たときにそう思ったのは彼が初めてだった。

「早めに来てもらっちゃったんですけど、、予約まで時間あるんですけど、どうしましょうか。」ふーま君があっけらかんと言う。
あ、特に何かアイデアがあったわけじゃないのね。しかし会ってしまったが100年目。こいつと時間を潰さなければならない。目的もなく散歩は避けたい。北千住にはショッピングモールがあるからそこへ逃げ込もう。
「うーん、何か見たいものとか買いたいものあります?」
「あ、僕最近スニーカー欲しいんですよね。白の。」
色までは知ったことではない。が、提案する。
「ABCマートがそこにあるのと、ゼビオも入ってますよ。ゼビオ見てみます?」「スニーカー買うのにゼビオって考えはなかったです!行きましょう。」
かくして出会って1分で、一緒にスニーカーを見に行くデートが始まることになった。

ABCマートでもゼビオでも東京靴流通センターでも、私としてはスニーカーにも彼にも興味はないので、時間を潰せればなんでも良かった。しかし結果的にゼビオは大正解だった。
ゼビオでふーま君は予想を遥かに超えるスニーカーの品揃えにウキウキしていた。
へえーこんなにゼビオって靴に強いんですね。すごいすごい。ニューバランスは持ってるから、、ナイキがいいかな。このHOKAって知ってる?
彼はニコニコとスニーカーを眺めて、よく喋り、いつの間にかタメ口になっていた。
それは意外と楽しいやり取りで、悪い気はしなかった。
しかし彼にファッションセンスが皆無だということは既に承知しているので、何を手に取るのか常に不安だった。これ以上ガッカリしたくないし、彼のセンスについて余計な口出しをしてしまいそうだ。私もスニーカーを見るふりをしてちょっと遠目から眺めていた。
気がつくとふーま君はHOKAの白いスニーカーの試着を始めていた。店員さんと気さくに話して、HOKAの知識を吸収し、これはいい、かわいいかわいいと嬉しそうだった。
誰にでも愛想良く話し、常に柔和な表情の彼はとっても素直に見えた。
いい人なんだろう。まあ次お会いすることはないが、と心の中で呟いた。

これお願いします、と結局2万円くらいのスニーカーを即決購入したふーま君。さすが外コン。財力が違う、と驚くのと同時に、何も気にしない人なんだな、と思う。
私ならアプリで初めて会う人と一緒に行ったお店でお買い物なんて出来ない。
お買い物にストーリーが生まれてしまうことで、その品物を家で見るたびに、買った時のことをきっと思い出す。良い思い出ならいいが、悪い思い出になるかもしれない。そんな呪われたもの、覚悟もなしに手元に置いておくことは出来ない。そんなことはおそらく一ミリも考えていないふーま君は、背負っていたリュックに真っ白なスニーカーをむんずと押し込んでいた。うむ、ださい。
「いやー、いい買い物できて良かった!HOKA本当にかわいい!そろそろ時間いい感じだから行こっか。」

予約してくれたお店は、彼のファッションセンスからくる予想と反して、女性ウケも良さそうな小料理屋さんだった。四国の郷土料理を中心にした落ち着いたお店で、カウンターに並びで座る。
おつまみとお酒を注文した。彼はお酒がめちゃくちゃに強いらしく、次に注文する日本酒を何種類か見定めていた。
「アプリ始めて、会ったのはmさんが初めてなんだよね。このアプリ、綺麗な人多いって聞いたから。そしたらほら、綺麗な人で良かった!」
ふーま君はやはりニコニコと話し始める。その言葉に嘘はないようだった。およそアポ1回目に相応しくないファッションがそれを裏付けている。だからその格好で来ちゃったか。素人め。
「ありがとう。でもふーま君、ほんと東カレっぽくないよね。」だいぶ正直ベースのもはや半分悪口なのだが、ふーま君はあまりピンときていないようだった。「なんか一緒に買い物した後だけど、自己紹介からした方がいいのかな。」
ふーま君は機嫌良く話を続けた。
私たちはそれから改めて自己紹介をし合った。当たり障りない必要十分事項の確認で終わるかと思っていたが、意外に盛り上がった。
お互いの職場の場所が近いこと、私が今住んでいる地域に以前ふーま君が住んでいたこと、大学の場所も近く同じ地域で学生時代を過ごしたこと、お互い国立大卒であること(重要)、同じようなバイトをしていたこと、お互いド田舎出身であること、といった共通点をザクザク発見していった。
こいつと共通項が多くても全然嬉しくないな、と思いながらも、お互いの共通言語が多いので話がすごく楽しかった。
初めて会った感じがしない!と彼も相変わらずニコニコしながら沢山喋ってくれた。

「今まで結婚願望はないの?」とふーま君は無邪気に恋愛の質問に取り掛かった。
こちらとしてはこの彼と恋愛の話をすることはには全く気が進んでいなかった。
しかも、その質問が出てくるということは、私の離婚歴を把握していないな?
たまに、というか高頻度でいらっしゃるのである。
私のアプリのプロフィールにはちゃんと、結婚歴を載せてある。アプリによって「結婚歴:離婚」「独身(離婚)」などと表示方法は違うものの、その情報を伏せてはいない。
ただ自分で自己紹介欄にわざわざ「離婚歴あり〼、それでもよければ!」と書くのは負い目を感じているかのようだったし、そこを目立たせたくなかったのでしていなかった。
だからプロフィールを読み飛ばすメンズは、少なからず現れる。ふーま君もその一人だ。
「えーっと、私のプロフィールちゃんと読まずにいいねしちゃったかなー?」「うん?」
「結婚ね、したことあるよ。」
「ほえ?」
私のプロフィールをその場で確認するように促した。ふーま君はクリームパンのような大きな手で小さなスマホ(未だにiPhone8)を操作した。
「ここは見てないよー!そういう人ってコメントのところに書いてるじゃん!そうしてくれたらわかるけど、ここまでは正直見てない。」
「いやいや、読んでよ。こちらは正直にちゃんと載せてるんだから。」
「今びっくりしたけど、俺全然気にしてないから。だから本当にここ全然見てない。」
ふーま君はさらりと言ってのけた。なるほど。気にしなさすぎると見る必要がないのか。「離婚歴把握せず来ちゃったメンズ言い訳選手権」でダントツ一位の高回答である。何のフィルターもかかっていない目で見てくれるのは正直とっても嬉しい。

「何があったのか訊いてもいい?」と彼は尋ねた。訊いてくれても大丈夫だけど、そこまでしっかり伝える必要はないだろうな、と思い私は星の数ほど聞かれた「何で離婚したの?」の回答集から、一番短くて明るいバージョンを選択。ちょっと自虐も入るやつだ。
ふーま君は柔和な表情を変えずにうんうんと聴いてくれた。
「・・・って感じなんだけど、世の中にはそんな摩訶不思議な離婚もあるみたい。あはは。」
私は笑いながらそう締めくくり、薄くなったレモンサワーを一口飲んだ。一息に喋って喉が渇いていた。
「でもさ、それ、辛かったんじゃない?」
話を聴き終わったふーま君が短く言った。それまでニコニコしていた彼の表情がはじめて曇っていた。眉毛が下がり、やや上目遣いでこちらを見た。
私は言葉に詰まってしまった。
これまでいろんな人に離婚理由を話してきた。特定のトラブルなどの明確な理由なくお別れした私のストーリーに、素直に納得する人は少ない。私本人だって未だにうまく咀嚼出来ず、丸呑みしているだけだ。
だから「手続き大変だったね」「そんなこともあるんだね」と聴衆からは事象への感想が寄せられることが多い。
そんな中で、ふーま君は初めて一言目で、私の気持ちに寄り添った。
そうなのだ。私は辛かったのだ。辛かったけど、気丈に振る舞い、ここまで走ってくるしかなかったのだ。
「mちゃんは俺がいなくても生きていけそうだから」元旦那は私の芯の強さに、そう言って別れていった。それはそうなんですが、そういう話ではない、と困惑しながらも、私は夫婦解散以降七転八倒を繰り返してきた。転んでもタダでは起きないのスローガンの元、どちらが前かも分からないが、とにかく行動して走って走って走った。
何のためにこんなに必死にパートナーを探しているのか、自分が可笑しくなることもあったが、突き進める足を止めることが怖かった。
いろんなメンズにお会いして、じょーずにお話しするのが上手くなり、何様か分からない査定をして、嫌なやつになったなーと自省した。
離婚当時も相当削られたが、その後の生活でもなかなかに気持ちが消耗している。
この時初めて、辛かった、と気付かされた思いだった。彼はあくまで離婚の事実について辛かったんじゃないかと尋ねているだけだけれども、私はもう全部ひっくるめて辛かったと認めていた。何なのだこの人は。この一瞬の時間に私の中の「辛かった」が押し寄せる。
「ごめん、涙出てきちゃった。あは。」
本当に涙が出てきていた私は、おしぼりで目元を拭った。
この不思議な柄のかりゆしの男の前で泣くなど、不覚。
ふーま君は眉毛がさがった顔のままで、お酒、なんか飲む?と勧めながら、私を落ち着かせようとしているらしかった。
「優しいんだね。私、大の大人が逃げ出すくらい性格結構やばいやつかもしれないよー?」
涙をひかせたくて、その場をはぐらかした。でもふーま君は静かにきっぱり言った。
「いや、今まで話してても、mさんはそんなふうに見えない。人って話してるとどんな人か大体わかるじゃん?mさんはそんな人じゃない。」
何なんだこの人は。一体何なのだ。

私の話を聞くと、話を素直に受け取り、どんな女なのかとビビるメンズもいっぱいた。私だってもし私のような離婚話を人から聞いたら、こいつ大丈夫か?と思うだろう。でも彼は私の話をそのまま素直に受け止めつつも、彼自身の視点と価値観で私を見てくれた。「そんな人じゃない」という言葉がどれだけ嬉しかったか。
ピンポイントで私の気持ちの弱いところを突いてくる。私が頭の中であなたにどんな酷評をしているかも知らないで。また涙が出てきた。
「ちょっとやめて、本当泣けるんだけど。ごめんね。もっとお酒いっとこう!」よしきた!と、ふーま君は気になっていた日本酒を注文し、私もお猪口をもらって一緒に飲んだ。
私は日本酒を普段は飲まないが、こうなっては酒、飲まずにはいられないッ!
そこから結局二人で日本酒を何合か空けた。彼は何杯飲んでもケロッとして美味い美味いと言っていたが、私は割と仕上がっていた。
初対面のメンズの前で酔い潰れるなど、通常なんたる破廉恥が待ち受けているか分からないが、ふーま君は大丈夫だろう。なおこれは信頼ではなく、舐め腐りである。
意識ははっきりしているものの、直立が難しくなっていた。そして無意味に口角が上がって楽しくなってきたところで、閉店時間も迫りお店を出ることになった。

お会計は私がニンマリ顔で傾いて座っている間に、いつの間にか彼の方が済ませてくれた。
まあ外コン君に私がお金を出すことはなかろう。でもちゃんと打診をば。
「ありがとお、でもちゃんと出すよおー、私もう社会人10年やってるんだぞー?」
「うん?今日、タダだってさ!行こう。」
ふーま君は大きな手で、私のお財布を握る真っ赤な手を押し戻した。こいつ手練れたイケメンみたいなことするなあと思いながら、私はえへへと立ち上がった。

意外と夜が更けており、終バスの時間が差し迫っていた。
次のバスが最後、というときにヘロヘロ歩いていた私の足が止まった。本格的に酔いが回った。
「ごめん、私、今乗ったら車内汚す自信しかないわ。ちょっと、無理。座る。」「大丈夫?そんなに酔ってたの、気づかなかった。水買ってくるね。」
「ふーま君帰れなくなっちゃうからいいよ!私そこのベンチで休んで、歩いて帰る。」
「俺まだ電車大丈夫だから、座ろう。水飲んで。」
ふーま君はコンビニで水を買ってきてくれた。ベンチに二人で並んで座った。
目の前の公園で酔っ払った学生達がよく分からない球技をしているのを見つめながら、私はありがとうとごめんを繰り返した。
久しぶりに本気で酔っ払い、大反省である。こんなこと10年前に卒業しておくべきだったのに。
その間、ふーま君は変に身体に触れることもなく、優しく隣に付き添ってお喋りに付き合ってくれた。
「二日酔いにめっちゃ効くやつあるから、次会う時はそれ飲んで。次買ってくるから。」
彼は介抱に慣れているんだろう。ありがたや。
私の足取りが何となく通常運転に戻ったのを確認できると、いよいよ帰ることになった。タクシーに乗れば良かったが、お家の位置をしっかり伝えられる自信がないので歩いて帰ると私は主張した。
ふーま君は家まで送るよ、と言い出すのかと思ったが、その場でお別れとなった。逆に紳士的。
初めて会った男に家の場所を知られたくないだろう、という彼の気遣いだろう。

「今日はありがとう。また誘うから!気をつけて!」
「遅くまでありがとねー!ふーま君も。」
この日は何だかいろんなことがあった。
衝撃のファッションセンスに出会い、スニーカーを買いに行き、割と心を揺さぶられる会話をして、酔って終バスを逃して、よちよち歩いて帰路に着くのだ。
彼の献身的な優しさに心動かされていた私は、二回目も誘われればアリかなーと相変わらず相当上から見定めていた。

この夏一番の大恋愛が、すでに始まっていたとは知らずに。


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