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読書記録⑤『ノースライト』感想 ー 静かに胸を打つ、喪失と再生の物語

横山秀夫『ノースライト』は、建築士を主人公にしたミステリーでありながら、喪失と再生を描いた静かな感動作でもある。特に心に残った場面や、読後に考えさせられたことを中心に、その魅力を語りたい。

1. ただ一脚の椅子が示す謎

主人公の青瀬は、理想の家を設計したものの、依頼主はそこに住むことなく、ただ一脚の「ノースライト」だけが置かれていた。この場面の静けさが、物語全体に流れる“失われたもの”の余韻を象徴しているように感じた。住む人のいない家という違和感が、読者を物語に引き込む。

2. 喪失を抱えた人々の姿

青瀬自身も過去の挫折を抱え、元妻や娘との関係に距離がある。彼が仕事を通じて真相に迫ることで、自分自身の喪失とも向き合っていく過程が丁寧に描かれている。特に、過去の家族の記憶がふとした瞬間に蘇る場面は、共感を呼ぶ。

3. ノースライトの意味

タイトルにもなっている「ノースライト」は、北向きの窓から入る柔らかな光を指す。この光は、登場人物たちの再生や希望を象徴しているように思えた。派手な展開はないが、物語の終盤で青瀬が“ある決断”をする場面には、静かな感動があった。

考えさせられたこと

1. 家とは何か

作中で、青瀬は「家はただの器ではなく、そこに住む人の生き方や思いが込められるものだ」と考えている。しかし、理想の家を建てた依頼主は、その家に住まなかった。では、本当に「理想の家」とは何なのか?住む人のいない家は、ただの建築物でしかないのか?青瀬の葛藤を通じて、「家」というものの意味について改めて考えさせられた。

2. 人は過去とどう向き合うべきか

青瀬だけでなく、作中の登場人物たちはそれぞれ何かしらの喪失を抱えている。彼らは完全に過去を断ち切るのではなく、少しずつ受け入れながら進んでいく。喪失から立ち直るためには、忘れるのではなく、「共に生きていく」ことが大切なのかもしれないと感じた。

3. 静かな物語の力

横山秀夫の作品といえば、警察小説や硬派なミステリーの印象が強いが、本作はそれとは少し異なる。派手な展開はないものの、淡々と進む物語の中に、じわじわと心を揺さぶるものがあった。日常の中に潜む喪失感や再生の瞬間は、決してドラマチックではなくとも、確かにそこにあるのだと実感させられた。

まとめ

『ノースライト』は、ただのミステリーではなく、人生における喪失と再生を描いた作品だった。事件の謎が解けるだけでなく、登場人物たちが自分自身の過去と向き合い、前へ進んでいく姿に心を動かされた。
また、「家の意味」「過去との向き合い方」といったテーマは、読者にとっても身近な問いとなる。静かに沁みる物語を求めている人には、ぜひおすすめしたい一冊だ。

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