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韓国の街並み#01.ノスタルジーという言葉を思い出させるソウル市城北区貞陵洞

 ソウルにある北漢山(북한산)の麓には、豆腐専門の料理屋があります。家からはバスに乗って4、50分ほど掛かるため、ゆっくりと時間のある日にしか行きません。そんなこともあり豆腐屋さんへ行く日はのんびりと、そして、あてもなく近くの町を探索するのが日課となっています。

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 2年ほど前のことです。

 秋晴れの透明感ある清々しい空気に乗って、爽やかな風とともに龍が大空を旅している日でもありました。

 ノスタルジー溢れる街並みに出逢います。

 その街があるのは貞陵洞(정릉동)。初めて来たのに懐かしく、ひと昔前までは多くの住人で賑わっていただろう歴史を漂わせるその風景には、もう二度とあの頃には戻れないのだという寂寥感がありました。


北漢山から流れる川沿いを歩く

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 まず最初に、お店の裏を流れる小川を見に行きました。いつにも増して、透明感のある水が流れます。

 空、空気、風、水、木々が触れ合う音ーー。

 この日の自然の合言葉は、すべてにおいて「透明感」だったように思います。

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 そのまま川沿いを下っていきます。

 どこに行くかは決めていません。その先に何があるのかも分かりません。ただ、道はあるので、どこかへは続いているのでしょう。

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 写真中央にいる白い鳥は、魚を狙っています。

 私は狩りに成功する決定的瞬間が見られることを期待し、じっと観察していましたが、結局目にしたのは、川底の石でツルっと滑る野生らしからぬ姿でした。それも、3、4回も。これはこれで良いところを見させてもらいました。

犬も歩けば棒に当たる、ならぬ、鳥も歩けば川で滑る。

 きっと、藻がたくさん生えて、滑りやすかったのでしょう。
 ドンマイ、鳥。


民家とともに並ぶ寺院

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 川沿いの道に、民家と並んでお寺がひとつ現れました。

 深緑色の扉の横には「韓国佛教太古宗萬徳寺」と書かれています。

 海外に行くと生活の中にあるーー、いいえ、より正確に表すのであれば、人々の生活を包み込むようにして存在する宗教というのを感じますが、それは韓国も同じです。由緒正しい有名な寺院や教会もありますが、このように民家と一緒に立ち並び、当たり前のように街の一部となって静かに佇むお寺によく出逢います。

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 漢字で書かれた看板がなければ、そのまま気づかずに通り過ぎてしまうところでした。お寺には庭もあり、そこにはお地蔵様らしき仏像が数多く置かれていました。ここは確かにお寺です。


分かれ道と、道しるべと

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 さらに下っていくと、「박경리 가옥(パク・キョンリ家屋)」という案内を発見しました。

 朴景利(1926〜2008)は韓国の有名な女流作家(小説・詩)です。

 代表作には、「토지(土地)」「김약국의 딸들(キム薬局の娘たち)」「불신시대(不信時代)」などがありますが、私はどれも読んだことはありません。題名と年代からして、難解な香りしかしないためです。おそらく、知らない単語も盛り沢山でしょう。辞書を引きながら読む小説は、なんだか冷めてしまいそうですよね。ーーっていう言い訳。

 閑話休題。

 ここは分かれ道。

 最初から目的地の決まった散歩ではありません。折角なので、朴景利家屋を目指すことにしました。


道しるべに従えば目的地に辿り着くとは限らない

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 案内表示の場所から40mの場所にあるはずの朴景利家屋ですが、どこまで歩いても見当たりません。たったの40mです。迷うような距離ではありません。それなのに、来た道を戻って探しても、やはりないのです。

 うん、これは永遠に辿り着けないとみた。

 その代わり、最近のソウルではもう見られないようなノスタルジー溢れる迷路のような街を行くことにしました。

 そう。目的のある散歩ではありません。どこに行っても良いのです。


過ぎ去った昔の風景がよみがえる街並み

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 コンクリートで固められた細い道を歩くと、小高い山の上に着きました。眺めが良く、全身で風を感じます。

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 多くの住宅は空き家のようでしたが、それでも、たまにテレビや台所の音が聞こえてきました。ゴミはきちんと所定の場所にまとめられ、歩道もきれいに管理されているようでした。

 意外にも整ったその街並みは、ここで生活をしている人々の存在を感じさせますが、それと同時に、どこか寂し気でもありました。

 どこにでもある見慣れた街では感じない、不思議な感情です。

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 庭で野菜を作っている家もありました。長閑な風景に癒されつつも、この急勾配で畑をするのは苦労も多いだろうと感じました。

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 一歩一歩足を進めるたびに、数十年前の世界へ自分自身が入り込んでいくような錯覚に陥ります。太陽が少しずつ傾いてきて、昔はいただろう家に帰ろうとする元気な子どもたちの声が、遠くの方から聞こえて来るような気がしました。

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 人と同じように、人が創り出した街もまた年老いていくのだと感じさせる街並みでした。

 すべては諸行無常です。


再び現代の街中へ

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 道に沿って山を降りると、現代のソウルが現れました。

 見慣れた風景ではありますが、タイムスリップした後の現代はまた違った雰囲気を漂わせています。

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 「さて、次はどこに行こうか」なんて考えていると、ナツメの木を発見しました。柿の木はよく見掛けますが、ナツメの木は珍しいです。今まで気づかなかっただけかもしれませんが。

 韓国料理ではナツメをよく使うので、家にあると便利だなと思いました。

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 再び川を発見したので、そのまま川沿いを歩くことにしました。

 相変わらず水は綺麗で、流れが穏やかな場所では小魚がたくさん泳ぎ、それを鳥が狙っています。不思議なもので先ほどの鳥とは違い、この鳥は簡単には滑らなさそうな風貌をしていました。


絵がある街並み

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 川の先に現れたのは、可愛らしい街並みです。

 先ほどの街もそうでしたが、ソウルではこうして絵や詩が描かれた外壁をよく見かけます。町おこしの一環として、地域の若いクリエーターが描いていることが多いです。

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 몽몽이발소 (モンモンイバルソ)という名前のお店を発見しました。
 ロゴの絵からも分かるようにトリミングサロンです。こじんまりとした、可愛いデザインです。

 ちなみに、韓国では犬の鳴き声を「モンモン」といいます。

몽몽(モンモン):ワンワン(犬の鳴き声)
이발소(イバルソ):理髪店

 直訳すると「ワンワンの理髪店」。
 韓日翻訳だからこそ生まれる、妙な面白さを感じます。

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