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#14.大学の授業で視野が広がり、生きるのがさらに楽しくなった

 以前の記事で、心が不安定になりやすい場合は物事の捉え方や思考パターンを変えることが重要だと書きました。

 今回はそれに関連して、考え方を変えるのに役立った大学の授業についてお話ししたいと思います。

 

視野を広げたい

 高校を卒業して1浪した後、スコットランドの大学に留学しました。

 「留学している」と人に話すと、ほぼ決まって、留学しようと思った理由を訊かれます。本当の理由を話すのは面倒なので、毎回このように答えていました。

視野を広げたいと思ったから。

 シンプル・イズ・ザ・ベスト。決して嘘ではありません。なんとなく一番説得力があり、追加質問もなさそう(←すごく重要)だったのでこう答えていました。

 改めて考えると、確かに留学したおかげで視野が広がり、そのおかげで、生きるのがラクに、楽しくなったように思います。


視野を広げた社会人類学

 大学では社会人類学(Social Anthropology)を専攻しました。視野を広げるにはぴったりの学問です。

 社会人類学とは、簡単に言うと現地調査を基に異文化を研究する学問で、昔テレビで放送していた「世界ウルルン滞在記」の世界観に近いです。社会人類学者は自分とは異なる文化の中に入っていき、現地の人々とともに生活しながら現地の社会文化を研究します。

 話は逸れますが、小さい頃は「世界・ふしぎ発見!」と「世界ウルルン滞在記」が大好きで、世界中を飛び回るミステリーハンターという仕事に憧れていました(今もそうですが)。

 小学校3年生くらいでしょうか。「ミステリーハンターになったらセリフ覚えるのが大変そうだな。どうしよう、自分にできるかな。しかも、嚙まないで伝えられるかな」なんて、本気で考えていました。自分、かわいい。


異文化理解の難しさ

 閑話休題。

 異文化を理解するためには、単純に知識を増やしていけば良いというものではありません。

 もちろん知識も必要です。しかし、社会人類学を学んで分かったことは、社会や文化が違うということは人々の中で使われている基本的な概念、そして、理論や論理が異なるということです。

 つまり、今まで一度も疑問に思わず普遍的だと無意識のうちに信じ込んでいたこと(=常識・当たり前)が全く通用しないのです。

 逆に言うと、自分の生まれ育った社会で使われている慣れ親しんだ概念を異なる社会に持ち込もうものなら、誤解を生じかねません。それは異文化だけでなく、人に対しても同じです。ある人を理解できないと思うのは、自分の固定観念でその人を評価・判断しているからに過ぎないのです。


壊される固定観念

 社会人類学を学び始めてしばらくすると、それまでに築き上げてきた自分の世界観が崩れていくのを感じました。

What you believe to be true is not always true;
There is nothing certain.

真実だと信じていることが必ずしも真実ではなく、
確かなものは何もない。

 自分が立っている地面がどんどん不安定になっていくような感覚です。

 あれ、今こんにゃくの上に乗っている? 
 いいや、違う。豆腐? 
 いやいや、違う違う。とろけるプリン?

 「自分が何を確信したとしても、それが正しいとは限らない」と分かった状態で自分は生きていけるのだろうかという恐怖感にも襲われました。

 授業の帰り、街の外れを流れていた小川を眺めながら思います。

 参ったなあ~。どうしよう・・・。

 結局この不安は一時的なもので終わりましたが、社会人類学のおもしろさは、実はここにあったのです。

 無意識に築き上げられた固定観念が崩れ、さらには、思考の基盤となっていた何かを失うということで、逆に、世界や人生のおもしろさを知ることになるのです。


教授が出した問題で思考システムが変更される

 ある日のこと。

 その日の授業はワークショップ(Workshop)でした。20人程度の学生が4、5人のグループに分かれて課題に取り組みます。

 テーマは「交換システム(Exchange System)」で、日本語では交換制度や贈与交換などとも呼ばれています。

◆ビッグマン(Big Man)

 交換システムの例としてしばしば挙げられるのが、ビッグマン(Big Man)です。

 メラネシアやポリメシアの部族には、強い影響力を持った「ビッグマン」と呼ばれる人たちがいます。彼らは互いに豚などを交換して競い合うことで威信を手に入れ、その地域のリーダーになることができます。簡単に言うと、より価値のあるものを多くあげた人が、より大きな影響力を持つビッグマンになれるのです。

◆クラ(Kula)

 もうひとつ有名なのがクラ(Kula)です。

 クラ(クラ交易)はパプアニューギニア島の東部にあるトロブリアン諸島で行われている儀礼的な交換システムです。「赤い貝の首飾り」と「白い貝の腕輪」が円環状に結ばれた島々を回り続けるのが特徴です。ほかの島へはカヌーで渡ることになるため大きな危険を伴いますが、このシステムは互いの恒久的関係維持に寄与していると言われています。

 クラは非常に奥深いシステムです。下記のサイトに詳しく説明されているので、ご興味のある方はご覧ください。


 前置きが長くなりましたが、ワークショップでの課題がこちらでした。

What are the consequences of exchange system? 
交換システムは、結果として何をもたらすでしょうか。

 グループの話し合いでは、前述にあるような「政治的権力」「社会的影響力」「部族同士の関係維持」などの意見でまとまりました。

 ここで、教授が話し出します。

「ここでのキーワードが『交換システム(exchange system)』と『結果(consequence)』だというのは分かったと思います。そこで交換システムを出発点と捉え、それが生み出す結果について考えませんでしたか?」

 ん? えぇ、当然です。

 教授は続けます。

「確かにそれで間違いではありませんが、交換システムを行っている状態とはどのような状態なのか考えましたか? そう考えることでこの問題をより広い視点から捉えることができます

 なぬ!

「つまり、交換システムを出発点ではなく結果として捉えることでその背景を理解し、その上で交換システムが生み出す結果を考えることで、より広い視点から問題に取り組むことができ、さらには深い見識が得られるのです

 もう目から鱗とはこのことです。
 目の前の教授が光り輝いて見えました。

 今までの学校の先生は、問題に答えること以外教えてくれなかったよ。

 教授はさらに続けます。

これは、人生においても同じです。物事を捉える方法は決してひとつではないということを、人類学を通して学んでほしいと思っています」

 そして、素敵な笑顔でこう言いました。

人類学っておもしろいでしょ?

 教授曰く、人類学に惹かれる一番の理由は「人生について教えてくれるから」だそうです。

 うん、完全に同意する。


◆◆◆


 このときの学びは、人生をさらにおもしろいものにしてくれました。

 一見つらくしんどいような出来事も、見方によっては、そこまで悪くないかもと思えたり、それどころか、笑えると思えたりすることもあるのです。

 教えてくれて、ありがとう。


 ではでは😊 


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