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韓国美術館#07.「ピカソと20世紀の巨匠たち」at マイアートミュージアム

 ソウル・江南に位置するマイアートミュージアム(마이아트뮤지엄)では、3月24日~8月27日まで、ドイツ・ケルン市のルートヴィヒ美術館協力のもと、韓独修好140周年を記念した「ピカソと20世紀の巨匠たち」が開催されています。

 ケルン市が運営するルートヴィヒ美術館(Museum Ludwig)は、1946年に弁護士のヨーゼフ・ハウプリヒが寄贈したドイツ近代美術作品と、1976年にルートヴィヒ夫妻が寄贈したピカソ、アメリカ・ポップアート、ロシア・アヴァンギャルドなどの名作を礎に1986年に開館されました。そのほかにも19~20世紀の写真コレクションや2000年代以降の美術作品も数多く所蔵し、ヨーロッパ屈指の近・現代美術館として親しまれています。

※以下、展示や作品に関する内容は、ミュージアムの解説と配布された資料を基に執筆しています。


「ピカソと20世紀の巨匠たち」

 本展示は、2022年に東京国立新美術館と京都国立近代美術館で開催された「ルートヴィヒ美術館展 20世紀美術の軌跡 ― 市民が創った珠玉のコレクション」を再編成したものです。

 ドイツ・表現主義やロシア・アヴァンギャルド、シュルレアリスム、抽象表現主義、ポップアート、ミニマリズムなど、激動の20世紀に胎動した芸術運動を追いながら西洋美術の軌跡をたどり、そこから発展してきた今世紀のドイツ美術を展望します。

 規模は大きくないものの、テーマに沿って非常によくまとまった構成で、ピカソからモディリアーニ、シャガール、カンディンスキー、ウォーホル、リキテンスタインまでと、20世紀を代表する芸術家たちの名作を堪能できる貴重な展示でした。

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1.ドイツ・表現主義とロシア・アヴァンギャルド(독일 표현주의와 러시아 아방가르드)

 20世紀初頭、新しい芸術を模索していたドイツの芸術家は、ギャラリーの全面的なサポートを受けて急浮上します。1912年、カンディンスキーを中心としたドイツ表現主義グループは青騎士派とダリ派を形成し、19世紀の写実主義と印象派の画風からの脱却を試みます。荒い筆づかいと原色の鮮やかな色彩を通して、人間の本性である純粋で原始的な躍動性を表現しようとしたのです。

 それと同時期、ロシアでは社会変動を背景に、既存の芸術を越境しようと試みたアヴァンギャルドと呼ばれる芸術的実践と理論が急速に栄えました。レイヨニスム(光線主義)やシュプレマティズム(絶対主義)、ロシア構成主義が、ここに含まれます。

 両国とも、激動の中で従来の芸術を越える革新的な表現を見出したという共通点がありますが、作品としては、異なる観点と芸術的実践を見せてくれています。

フランツ・マルク《牛》1913年
パウル・アドルフ・ゼーハウス《山岳の町》1915年
ワシリー・カンディンスキー《白いストローク》(1920年)
マリア・マルク《青いカップと赤いボウルのある静物》1911‐12年頃
ヴィリー・バウマイスター《立つ人物と青色の面》1933年
カジミール・マレーヴィチ《スプレムス 38番》1916年
ナタリア・ゴンチャロワ《オレンジ売り》1916年

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2.ピカソと同時代の巨匠たち(피카소와 동시대 거장들)

 ピカソは、20世紀初めに誕生したキュビズムを象徴する巨匠です。

 ルートヴィヒ夫妻は《アーティチョークを持つ女》に魅了され、ピカソならではの自由で新鮮な表現を駆使した名品を蒐集。その後1994年には90点、2001年には774点のピカソ作品をルートヴィヒ美術館に寄贈しました。これは、世界でも3番目の規模を誇るピカソ・コレクションです。

マルク・シャガール《妹の肖像》1909年
アンドレ・ドラン《サン=ポール=ド=ヴァンスの眺め》1910年
アメデオ・モディリアーニ《アルジェリアの女》1917年
パブロ・ピカソ《グラスとカップ》1910‐1911年
パブロ・ピカソ《眠る女》1960年
パブロ・ピカソ《マンドリン、果物鉢、大理石の腕》1925年
パブロ・ピカソ《アーティチョークを持つ女》1941年

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3.シュルレアリスムから抽象表現主義まで(초현실주의부터 추상 표현주의까지)

 20世紀の重要な芸術運動のシュルレアリスム(超現実主義)は、第一次世界大戦中の1910年代半ばに起きたダダイズム(※)から発展し、ヨーロッパやアメリカにおける新しい芸術運動の土台となりました。その運動の一つが「非定型の芸術」を意味するアンフォルメル(Art Informel)です。すべての定型を否定し、自由で直感的な抽象性を目指したこの表現は、ヴォルスやジャン・デュビュッフェが先駆者として知られています。

※ダダイズム:第一次世界大戦に対する抵抗やそれによってもたらされた虚無を根底思想に持っており、既成の秩序や常識に対する否定、攻撃、破壊を大きな特徴としています。

ダダイズム|美術用語解説 | media.thisisgallery.com

 1940年代初め、ヨーロッパのシュルレアリスムの画家たちの多くは戦争から逃れるためにアメリカへ渡り、抽象表現主義の発展に大きく貢献します。抽象表現主義を代表する作家のジャクソン・ポロックは、シュルレアリスムの画家たちとの交流を通して、人間の潜在的な無意識と無作為で即興的な表現方法に関心を持ちました。

ジャン・デュビュッフェ《大草原の伝説》1961年
ジャクソン・ポロック《黒と白  No. 15》1951年
アンス・アルトゥング《T 1963-E 2》1963年
コンラート・クラーフェク《兵士の花嫁たち》1967年

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4.ポップアートと日常(팝아트와 일상)

 第二次世界大戦後の1950年代中盤にイギリスで誕生したポップアートは、1950年代後期になるとアメリカまで拡大。1960年代にはニューヨークを中心に発展し、世界的に大きな影響を与えました。

 ポップアートは新聞の漫画や雑誌、産業デザイン、映画やTVのワンシーンなど、大衆文化や消費文化を題材にした芸術で、ジャスパー・ジョーンズ、ロイ・リキテンスタイン、アンディ・ウォーホル、クレス・オルデンバーグなどが有名です。

アンディ・ウォーホル《ペーター・ルートヴィヒの肖像》1980年
アンディ・ウォーホル《ホワイト・ブリロ・ボックス》1964年
ロイ・リキテンスタイン《タッカ、タッカ》1962年
ロバート・インディアナ《アメリカ・ガス製造所》1962年
ジャスパー・ジョーンズ《0‒9》1959年
アンディ・ウォーホル 《二人のエルヴィス》1963年

5.ミニマリズムの傾向(미니멀리즘 경향)

 ポップアートが日常のイメージを用いて芸術を作り上げた一方で、1960年代に盛んになったミニマリズムは、二次元性から完全に脱却し、絵画的技法と余分な装飾を最小限に抑えて、本質だけを表現しようと試みました。その結果、最小限の色彩で幾何学的な構造だけを表現する単純な形態の美術作品が主流となります。

モーリス・ルイス《夜明けの柱》1961年
ブリンキー・パレルモ《四方位 I》1976年
ギュンター・ユッカー《大きな螺旋 I(黒)と大きな螺旋 II(白)》1968年

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6.ドイツ現代美術と新たな潮流(독일 현대미술과 새로운 동향)

 最後の第6章では、パフォーマンスアートやビデオイメージなど、多様なジャンルを掛け合わせて成長した現代美術について紹介しています。

 冷戦時代のルートヴィヒ美術館は、東ドイツの作家たちのコレクションを購入したり、東ドイツの美術館にそれらを貸し出したりして、東西ドイツのつながりを維持・強化しました。

ヴォルフガング・マットホイアー《今度は何》1980年
イケムラレイコ《グリーンスケープ》2010年
カーチャ・ノヴィツコヴァ《近似(ハシビロコウ)》2014年  

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 今回の展示は、段々と理解が難しくなる近・現代美術について学べる貴重な機会でした。

 突拍子もない作品に見えても、それまでの歴史的・社会的背景をもとに線のつながりから考察することで現れる、作品の深味。とてもおもしろい展示でした。

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