ロールちゃん、という思い出
「ロールちゃん」。150円でクリームをたっっぷりいただける、ロールケーキ界の切り込み隊長。(と、勝手に呼んでいます)
お題「#至福のスイーツ」を見て、「1番思い出に残っているスイーツってなんやろ〜」と記憶をたどっていると、京都での大学生活中に2人で食べた、このスイーツのことを思い出しました。
これは、10年前の、甘酸っぱい恋の話しです。
温かい珈琲とご一緒に、どうぞごゆっくりお楽しみください。
ロールちゃん、という”至高”品
田舎育ち・7人家族のぼくにとって、ケーキは1人一切れの、貴重なスイーツでした。
「厳密に言ったら、余りの一切れを弟妹と3人で分けてたから、1.3人分やねんけどな」
こんな馬鹿な発言にも、くすくすと笑ってくれる、優しい恋人がいました。
大学1回生の同じクラス、笑ったときの細い目が可愛い、栗色の髪をした女の子。
京都の右京区にある大学に通う為、1人暮らしを始めたぼく。毎日、お寺の中を自転車で駆け抜けて通学します。
同じ道を、徒歩で通っていた女の子が、一緒のクラスだと気が付いたのはしばらく後。
実家から通うその子の最寄駅は、ぼくの通学路の途中にあります。授業が終わって、一緒に帰るようになって、そうしてぼくらは恋人関係になりました。
* * * * *
ある日、2人で近くのスーパーへ行ったとき、「これ食べようよ」と持ってきたスイーツがあります。
名は「ロールちゃん」。耳の長いうさぎが描かれた、子どもたちに喜ばれそうなパッケージ。
「クリスマスにシャンメリーと一緒に出てきそうやな…」なんて思っていると、もう片手に持っているものに気が付きます。
苺のパック。嬉しそうに、トンっと買い物カゴに入れてきます。「まかせといて」と言っている彼女に、何をまかせれば良いのかよくわからないまま、レジに並びます。
* * * * *
ワンルームの我が家に帰り、晩ご飯を食べて、録画していた「踊る!さんま御殿!!」を観ていました。
すると彼女が急に、「ジャーン」と言いながら、Seriaで買った白いお皿を運んできます。
お皿には、丸々1本のロールケーキと、その上や周りに散りばめた苺が。
「ぜんぶ食べてもいいよー?」
という彼女。
「い、いいの…!? ( ゴクリっ )」
ロールちゃんの正式な1人前がわかりませんが、山崎製パンさんも、さすがに1人1本の計算ではいないはず。
ケーキは1人一切れ、Maxでも1.3人分で育ってきたぼくです、「あぁ、大人って最高や…」(当時19歳)なんて思いながら、ロールちゃん苺verをいただきました。
教えてもらったこと
彼女には、いろんな新しいものを教えてもらいました。
滋賀で知らない人はいないというスーパー「平和堂」。いつも結局 ”ふわふわ帽子のオムライス”を頼んでしまう「ベビフェ」。風邪をひく度にくれた、「パイロンPL顆粒」という薬。
7.5畳の1R。最寄駅に近いぼくの家には、よく遊びに来てくれました。実家の父が家に来るということを忘れ、翌朝まで一緒に過ごしてしまい、父に「友達の家にいるからすぐ戻る」なんて嘘をつき、やり過ごしたこともありました。
あの頃のぼくは、自分勝手な男でした。英語の発音が上手で、目立つわけじゃないのに魅力的な雰囲気の彼女に、少し嫉妬心も感じていました。
幸せな日々の大切さに気付かずに、2人の関係を自ら終わらせてしまって、つくづく自分は馬鹿だなぁと、後悔したこともありました。
それから6年が経って
一度だけ、京都の野菜が美味しいお店で、偶然居合わせたことがあります。
ぼくは、中学の同級生が同じ京都にいることを知って、その子と久々の再会を楽しんでいました。
彼女は、同じお店の、同じカウンター席にいました。カウンターはコの字になっていて、ちょうど彼女の背中しか見えない位置に、ぼくらの席がありました。
店に入った瞬間、どきっとしたのを覚えています。後ろ姿だけでもわかる彼女の存在と、その隣にいた、広い背中の男性。
人違いかもと思いながらも、時折り聞こえてくる声は、やっぱり聞き覚えがあります。
はっと気づいた時には、その子は店を出るところでした。店内とは対照的に暗い路地の方へ、隣の男性と、腕を組みながら歩いて行きました。
「そういうベタベタすることしやんタイプやったよなー。」
人違いかもという気持ちと、あの頃とは変わったのかなという、ちょっとだけしんみりした気持ちになります。
これから先、どんな美味しいロールケーキを食べても、きっとロールちゃんを思い出します。車の音がうるさい、あの1階の部屋で、2人並んで食べた、あのスイーツを。
そして、いろんなことを思い出します。
お揃いのマグカップのこと。2軍のアイテムが詰まった、お泊まり用の化粧ポーチのこと。こっそり授業を抜け、自転車の後ろに乗せて駆け下りた、あのお寺の坂道のことを。