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『エッセイのまち』の仲間で作る共同運営マガジン

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2020年8月の記事一覧

ごめんねぼくは。 #書き手のための変奏曲

おかあさん、若くていいよね。 そんなことを、昔から言われてきました。 ぼくは母が20歳のとき、帝王切開で生まれました。生まれたときの体重は、4,500g。当時その産院で生まれた赤ちゃんの最重量記録だったそうです。子どものころ、母のおへそから下に走る一本の線を見ては不思議に思っていました。ぼくにはないのに、女のひとにはあるのかな。漠然と、そんなふうに思っていました。 ある日、だれかに何気なく言われたのをおぼえています。妹は普通に生まれたのにね、と。なんとなく、思ったのだと思い

どこにも行けないひとりの夜に、どうぞの一冊【幾千の夜、昨日の月】

眠れずベッドからも離れられない。どこにも行けない夜は、急速に、ひとりが色濃くやってくるように思う。 そんな夜があったのは、だいぶ前のことだ。ちょうど7年前の、娘が生まれてからしばらくは、毎夜がひとりぼっちの眠れぬ夜だった。 南半球の8月は冬の終わりで、あの年は小さな雪が舞ったくらいの寒さで、春の匂いがするはずの9月になっても、夜になると寝室の窓枠からひんやりとした空気が忍び込んできた。 23時、1時、2時半。泣き声が聞こえるたび、温かい布団から這い出すようにして赤子を抱