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米中はなぜ対立するのか① これから「ドル」の話をしよう

中国の著名な経済学者に、温鉄軍という方がいます。
この方が、ドルについてわかりやすく語っています。
主な内容は次の通りです。

・米ドルが流通するしくみ
・なぜ米国が豊かになるのか
・金融が倫理を破壊する
・金融が戦争を引き起こす
・米中対立の本質

全3回に分けて、抄訳をお送りします。
今回は第一回です。


温鉄軍教授

米中対立の本質は、金融資本をめぐる対立です。
中国の持つ金融資本の総量が一定規模に達したので、世界の主要なプレイヤーである米国と衝突しているのです。

これから「ドル」の話をしよう

世界の金融のルールは、米国が定めています。
主要なプレイヤーは米国です。
そこに準・主役としてあらわれたのが中国です。

中国が金融面の競争に参加しなければ、米中は戦略的な補完関係が続いたことでしょう。
中国は大量の製品を生産し、それを安価で米国に売ってドルを獲得し、そのドルで米国債を購入してきました。
このしくみのおかげで、米国は二重に利益を得ることができます。

米国では、貿易赤字が多ければ多いほど、資本流入による利益が多くな
ります。
つまり、米国が大量の貿易赤字を生み出すと、他国は貿易で得たドルで米国債を購入するので、米国は再び大量のドルを発行できるのです。
こうして外部からの投資が大量に流入します。

そのため、アメリカは長期にわたりFDI(海外直接投資)の受け入れで世界一の国であり続けました。

このしくみを実現できるのはアメリカだけです。

発展途上国が米国を支える

他国は低価格な製品を供給して、米国の消費需要を満たしてきました。

私が米国を訪れるたびに、いつも不思議に思っていたことがあります。
それは、米国では、貧困層の世帯がスーパーで大量に買い物をしていることです。その衣料品のほとんどが中国製かインドネシア製でした。

発展途上国が、米国に安価な商品を大量に供給し続けているので、貧困層でも消費を気にせず生活できるのです。
米国内の商品価格は非常に低く抑えられています。

では、これらの発展途上国は何を得ているのでしょうか?
彼らはドルを得ています。
そのドルで、製品をつくるための石油や天然ガス、さまざまな原材料を海外から購入します。
そして、自国の資源、労働力を投入し、苦労して生産した商品を低価格で提供し続けているのです。

この構造は悪循環を引き起こします。

発展途上国は、自国の環境が悪化します。
社会の矛盾を抱えながら、安価な商品を輸出しています。

そしてその見返りとして得られるのは、ドルという通貨です。
通貨は印刷機で刷られたものにすぎず、現在では電子マネーですから印刷すら必要すらなくなりました。

コンピュータ上に数字を入力するだけで「通貨」が生まれます。
石油を購入するときには、その電子口座から支払いが行われるのです。

不公平な世界が広がった

米国は、ほとんど無制限に消費を享受できるこのしくみを維持するために、強大な政治力と軍事力を用いています。
このしくみを美化し、「世界で最も優れた制度」として宣伝しています。

多くの人々がこの制度を羨望し、自国も同じようになりたいと願いますが、
現実には不可能です。

1980年代に、新自由主義経済の考え方にもとづく「ワシントン・コンセンサス」という考えが提唱されます。
このコンセンサスは「世界の20%の白人が近代化を享受し、80%の有色人種は享受できない」という前提のうえに成り立っており、国際間の格差が広がりました。

われわれは残念ながら、その「20%」には含まれていません。
そして金融資本の拡大がさらに進み、今では世界のわずか0.数%の人々が、膨大な富を占有するようになりました。

この金融資本の仕組みで利益を得られるのは、ほんの一握りの人々に限られており、大多数の人々はその中に入ることができません。

2008年のウォール街金融危機後、米国でウォール街占拠運動が起こったのもこの背景があるためです。
この運動は警察によって鎮圧されます、非常に象徴的な出来事でした。

第二回に続く

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