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呼吸のリズムが、腑に落ちる。
中学、高校時代に部活で弓道をしていたとき繰り返し言われたことがある。
「呼吸を意識するように」
まず左足を出すときに吸い、右足を出すときに吐く。ひとつひとつの動作を始めながら吸い、終わりながら吐く。そして複数人で弓を引くときには、呼吸を「合わせる」ことが要求される。例えば、一列に並んでおいて順に入場するとき、前の人と呼吸ー足運びを合わせて入場するのだと。
正直この話がずっとよくわかっていなかった。空気を鼻先から出し入れするタイミングやペースを合わせることに何の意味があるのか。
じんわりとわかってきたのは、いろいろなことを知って体験したのちのはなし。
ふりことおひるね
同じ壁に掛かった2つのふりこ時計が同期するという17世紀に発見された奇妙な現象がある。ばらばらにはじめたのに、振動やら何やらが床や壁、空気などを(いろいろと研究がある)伝わって最終的に同じ向きに同じリズムを刻み始めるというもの。ネットで見つけたメトロノームバージョンの動画が気が狂いそうでいいかんじだったので貼っておく。
これを思い出したのは、恋人と狭いベッドで身を寄せ合っておひるねをしていたとき。
私もとにかくよく寝る人間と自負しているのだがこの人には負けるというレベルで寝る生物。珍しいことに寝付くのも私の方が遅れるのだが、そのときにふと気づいた。最初はばらばらだった呼吸が、徐々にその様子を合わせていき、最終的には同じリズムを刻み始める。
それだけではない。同期するのは空気の出し入れだけではなく、からだ全体の動きだった。
からだと呼吸
呼吸のことを口を酸っぱくして指導してくれた外部コーチ的な師範の先生は、本業がお医者さんだった。今になって思うのは、その人は当たり前にわかっていたからそんなに言葉を尽くさなかったのであって、こちらからわかりにいく必要があった(武道って往々にしてそんなもん、というのもある)。
呼吸というのは横隔膜の動きだし、肺の動きだし、もちろん鼻や口も動くし、それらの動きがからだの構造を伝わって全身に波及している。ガス交換のリズムであることを考えれば循環器も全部関係している。
呼吸のリズムはからだのリズムだった。
同じリズムに身を委ねるということ
これはちょっと蛇足になるが、からだとリズムの関係の話は、ラテンダンスをやっていたときのことを想起させる。
サルサであれば1,2,3……、バチャータであれば1,2,3,4……の緩急の込もったリズムがある。即興で繰り出されるダイナミックなからだの動きが魅力的だが、ベースにあるのはこのリズムに従った基本的なステップの組み合わせに他ならない(ステップの概念、本当に新鮮だった)。バチャータの参考動画を置いてみた。
2つのからだが同じリズムに身を委ねて動くことではじめて織りなされる爆発的で魅力的な動き。逆に、リズムに合わせられない人とのダンスは本当に死んでいる。
非人間の呼吸
『ONE PIECE』21巻で、ロロノア・ゾロが刀で鉄を斬れるようになる(!)。
![](https://assets.st-note.com/img/1738418727-HRbt6yFG1vQkKi40N2hmEfPM.png)
非人間の呼吸に関しては私もよくはわからないが、冒頭のふりこやメトロノームの例も非人間であるように、内部の物質の振動というミクロなレベルでの動きが同期してなんらかの収縮/弛緩のようなリズムがそこに生じているとしても不思議でないと思う。
ちなみに、冒頭のカバー写真は、岡山県鏡野町富地区の白炭づくりの窯の様子である。白炭は漆器や金属の研磨に用いられ、その製作は選定保存技術として登録されている。鉄などの金属を作るのにも木炭(この場合は黒炭)が必要な技法がある。これまでの話を踏まえて、炭づくりの炎のゆらめきを見てほしい。
呼吸のリズム
いずれにせよ、呼吸の話が口や鼻でのフハフハスピスピだけなのではないことがずいぶん私の腑に落ちてきた。
呼吸がすべての真理である的な語り口に私がどれだけ納得できるかはおいておいて、思ったより世界は複雑だし、シンプルだということなんだろう、な(ぶんなげ)。