見出し画像

カサンドラが自らの力で幸せをつかむまで〜ASD夫との10950日 #26

「父親の役割とは?」

夫の転勤で、私たち家族は福島に移った。
もともと転校が多く移転が苦にならない私は、たくさんの人々に出会い、地方での子育てを行っていた。

家族はチームである。
しかし夫は何かを行うとき、全く戦力にならない。
自分には関係ないことのようにどこ吹く風で、偉そうにたまに持論を語るが面倒なことは一切しない。

ただ中学校の学園祭だけは、足繁く(別行動で)通っていた。

私はペーパードライバーだったが、事業で得た利益で中古の軽自動車を購入した私は、羽が生えたようにいろいろな大変を子どもたちにさせたいと飛び回った。
十分ではないが、習いたい習い事はさせてあげたかった。

いつも、出かけるのは夫を除く家族3人である。
「〇〇さん(私の名前)って、旦那さんいるんだよね?」と陰で言われているのは知っていたが、直接聞いてくる人は少なかった。

夫は好きなだけトイレを占有し、好きなだけタバコの煙を燻らせている。
タバコの匂いがとても苦手な私には、それだけで一緒にいたくない理由となったが、
「タバコを吸う側の人権はどうなんだ?」と社会への不満ばかり口にして、一向に自分の行いは改めようとしない。

「人権はあるよ。行動についての問題でしょ。」
などとと言ったものなら、
「お前に何が分かる。基本的人権について言ってみろ。言えるのか?憲法。」

自分について何か言われると、過剰防衛と思われるほどに察知し、攻撃に出る。
正常な会話が、成立しないのである。
関わらなければ、話さなければ悲しい思いもしない。

関わらなければ傷つかない。
頼らなければ、失望もしない。

果てしない孤独である。
どこまで行ってもトンネルの中にいるような気持ちで暮らしていた。
外での自分の評価が高ければ高いほど、それは空くも感じた。

適応障害の診断を受け、服薬していた私であったが子どもの習い事の送迎は全て私の役目だった。
しかしある日うっかり安定剤を飲んでしまい、車の運転の危険があった。

これは、寝ている夫に頼むしかない。

「あの‥お願いがあるんだけど。」
頭の回転が早く、一瞬で損得を判断する彼は、
「何?」と聞き返す。

「薬を飲んでしまった。車の運転ができないから、子どもを送ってほしい。」
「‥。」
「ねぇ?」

シャットダウンしてしまった。
布団を被り、全く動かない。
要は面倒なのである。
にわかにいびきを描き始めた。
狸寝入りである。

そうするとテコでも動かないし、食い下がれば罵声を浴びせられる。
それくらいなら大丈夫とでも思っているのだ。

運転ができるかできないかではない。
2人共有の課題に対し、一切義務感を持っていないこと、そして
安全に影響するだろう私の願いを「寝たふり」という卑怯なやり方で、やり過ごそうとしているのである。

私はコーヒーと眠気覚ましを大量に服用し、現地へ向かった。

だが私は、帰り道物損事故を起こしてしまった。
やはり運転は難しいと、車を寄せようとした瞬間であった。
幸い怪我人も出ず、ナンバープレートが曲がったくらいであったが、そのことを彼に告げると、こちらも見ずに

「ふんっ。お気をつけください。」と言い、また寝入ってしまった。

助けてくれなかったばかりか、「怪我はなかったか?」の一言もない。
怒りが込み上げ憎しみが湧き私は大声で泣いたが、自分が責められることだけは何があっても避けたい彼は、そのまま車でどこかへ行ってしまった。

私の精神は、水を与えられずに砂漠をただ歩いていた。
そうしてあの、震災を迎えるのである。

いいなと思ったら応援しよう!