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映画を心に刻む1『般若心経〜こころの宇宙〜』
映画を観っぱなしにせず、ちゃんと心に刻むための考察シリーズを初めてみます。今回はその第1回目です✨
タイトル『こころの宇宙 般若心経』
視聴媒体:Amazonプライム
日本2011年 1時間48分
★★★★☆(レビュー数5件)
感想
映画『般若心経(こころの宇宙)』を見て、とても面白く、心に残る作品だと感じました。この映画は、仏教の核心である「般若心経」をテーマにしながらも、単なる宗教映画にとどまらず、人生における苦しみや葛藤、そしてそれらを乗り越える過程を、物語として深く描いています。
前置き
ただし、この映画は万人におすすめできるものではないかもしれません。
理由は、般若心経に対する知識や興味の有無が、映画を理解する鍵となるからです。「般若心経?ああ、短いお経だよね」と軽く捉えている人や、「仏教って難しそう」という印象を持つ人にとっては、内容が難解で、意味を見出しづらい可能性があります。
私自身、般若心経に精通しているわけではありません。しかし、30代の頃に諸橋精光作の『般若心経絵本』に感銘を受け、それを機に関連書籍や『100分で名著』など色んな動画を通じて学んできて10年以上般若心経に親しんできました。だからこそ、この映画の随所にちりばめられた般若心経の教えと、それを人生の物語に落とし込んだ巧妙な構成に深い感銘を受けました。
あらすじ
この映画の中心には、苦しみを抱えた3人の主人公がいます。
元社長
やり手のビジネスマンとして成功を収めていましたが、仕事仲間に裏切られ、会社を失い、妻には子どもを連れて家を出て行かれました。社会的な地位や家族、全てを失った孤独な男性です。
A子
幼少期に毒親から「あなたは幸せになれない」と言われ続け、その言葉がトラウマとなり、自分を愛し、未来を共にしたいと願う恋人からのプロポーズを受けることができずにいます。
スミ子
愛娘を交通事故で失った悲しみから抜け出せず、怒りや喪失感に囚われています。
ある日、この3人は偶然にお寺の般若心経の勉強会に参加します。そこでの学びと体験を通じて、自分たちの苦しみの根源と向き合い、それぞれの人生を切り開くためのヒントを見つけていきます。
考察:主人公たちの苦しみと仏教の「八苦」
3人の主人公が抱える苦しみは、仏教でいう「八苦」と重なります。これは人が避けられない苦しみの種類を指します。
元社長:「求不得苦ぐふとくく」(欲しいものが得られない苦しみ)
彼は過去の栄光を取り戻そうともがきつつ、家族との別れという「愛別離苦」にも苦しんでいます。
A子:「怨憎会苦おんぞうえく」(嫌いなものに出会う苦しみ)
母親の言葉という毒が、彼女の心を深く蝕み、愛する人との未来を築くことを阻んでいます。
スミ子:「愛別離苦あいべつりく」(愛する者との別れの苦しみ)
娘を失った悲しみと、「なぜ自分だけがこんな目に」という怒りが彼女を苦しめ続けています。
『元社長』の再生
元社長は物質的な成功を追い求め、「幸せ=成功」という価値観に囚われてきました。しかし、般若心経は「成功も失敗もなく、ただ物事が変化していくだけだ」と教えます。劇中で、悲しみに暮れて道路に身を投げそうになっていたスミ子を助けたことがきっかけで、彼は自分の苦しみを見つめ直し、「執着を手放す」という学びを得ます。般若心経を再び学び直すことで、失敗や損失を「変化の一部」として受け入れるようになり、新たな一歩を踏み出します。
スミ子の癒し
スミ子は娘を失った悲しみと、「理不尽な出来事」に対する怒りに囚われています。仏教の教えを通じて、彼女は「娘との別れを悲しむ自分を許すこと」、そして「怒りを手放す」ことを学びます。これは簡単なことではありませんが、住職の「般若心経を学んで行くことが娘の冥福に繋がるのではないか?」という言葉が、彼女の癒しの第一歩となりました。
A子の葛藤と成長
A子は、母親から植え付けられた「あなたは幸せになれない」という言葉の呪縛に苦しんでいます。しかし、彼女はその言葉を自分の記憶の奥底に封じ込めていました。それを思い出したのは、般若心経の勉強会に参加し、『自らの心の痛みと向き合う』という経験をした時のことです。
なぜ自分が恋人からのプロポーズを受け入れられなかったのか?これまで付き合ってきた恋人を振り続けてきた理由は何だったのか?実は、結婚が近づくにつれて母親の影が心の中に現れ、「あなたは幸せになれない」という言葉が、まるで鋭いナイフのように彼女の心を突き刺していたのです。恋人のプロポーズを避け続けたのは、『憎しみの対象である母親との対峙』を避けるためでもありました。
やがて彼女は、自分の過去(トラウマ)と向き合う中で、母親を「慈悲の心」で許すことが癒しにつながると気づきます。しかし、母親を許したい(愛したい)自分と許せない(恨んでいる)自分の間で揺れる葛藤は、まるで心に刺さった毒針を抜くような激痛を伴います。映画の中で、彼女が母親に会いに行く場面は、この作品の中で最も感情が揺さぶられるシーンのひとつです。
果たして彼女は最終的に母親や恋人とどのような結論を出すのでしょうか?ぜひ映画を通じてその答えを確かめてみてください。
映画の象徴としての「海」
映画の冒頭とラストに描かれる「海」のシーンは、般若心経の「すべては空である」という教えを象徴しています。私たちは波のように形を変える存在で、すべてが大いなる海(仏)の一部です。波である私たちは、時に高く、時に低く揺れ動きますが、その本質は常に海と繋がっています。この視点を得ることで、苦しみや喜びを超えた「空」の境地に近づけるのかもしれません。
最後に
映画『こころの宇宙 般若心経』は、現代を生きる私たちが抱える苦しみや迷いに、仏教の教えを通じて寄り添う作品です。物語を通じて、般若心経が単なる「お経」ではなく、私たちの日常に直結した智慧であることを実感させてくれます。
主人公たちの葛藤に、私たち自身の姿を重ねることができるのも、この映画の魅力です。人生に苦しみや悲しみを感じたとき、般若心経の教えに触れることで、新たな視点や気づきを得られるかもしれません。この映画は、その「入口」となる素晴らしい作品だと思いました。