TipToeingをショートストーリーにしてみました
昨日、Hope Talaさんの「Tiptoeing」を和訳したのですけれど、改めて歌詞を読んで素敵だな〜って思いました。
それで、触発されてショートストーリーを書いてみることにしました。是非読んでください✨
◇◇◇
どうしてこうなってしまったのだろう。
道路を行き交う車の赤いライトが、時折寝室の窓から入り込む。エンジン音が交差する。初めての夜に贈られた白い手織りのサテンの枕に上半身を預け、現れては消え、消えてはまた現れる灯りを目で追った。
全てはヴァル・ド・ラヴェール(シャンパン)のせいだ。甘く熟れた香りの気泡を弾く液体を、ただ、もっと飲みたいと思っただけだ。
隣に横たわる枕は、同じ白いサテンの枕だが、もはや同じではない。誰からも触れられることのなくなった枕。
主を失った今、なぜまだここに居続けるのだろう?
緊張した右手の指先が、枕に触れる一歩手前で止まる。
触れてはいけない。
伸ばした腕を体側に戻し、枕を見つめる。かつてここに沈んでいた身体の残像と、何もないこの空間を重ねる。そして、焦点を戻す。枕は相変わらず白い布をピンと張っていた。
両脚の形に温んだブランケットを引き抜くと、折った両脚の膝の上に掛けた。もっとひんやりとしていたら良かったと思った。あの時のグラスのように。そしてあの時の匂いを思い出した。香しい液体を抜け上がった気泡は上顎に触れて弾ける。そして鼻腔から抜け、消えていくのだ、何も無かったかのように。
折り畳んだ膝を伸ばし、踵をシーツに滑らす。
右腕を伸ばし、今度は左腕も伸ばし、両腕で抱え込む。体重を枕に預けると、枕は少し萎んで小さくなった。ツルンとしたサテンの生地がひんやりと冷たかった。
冷たく乾いた空気を胸に深く吸い込んだ。
*本文に登場する人物や出来事は全てフィクションであり、実在するものではありません。