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バリ島、とある風景| 三叉路

絶え間なく行き交うバイクを見ている。照りつける陽射しの下、横断歩道の無い三叉路を色とりどりのバイクがそれぞれの日常を乗せて通り過ぎる。例えば、目の前を通ったバイクには、ウドゥンを頭に巻いた男が操縦桿を握り、その腕の中には幼い男の子が立ったまま収まっている。そして後部シートには若い女が、布で赤子を胸に抱きしめながら横座りしている。

男が交差点を右折しようと右足を地面に這わせるように慎重に減速した瞬間、後方を走っていたヘルメット姿の一人乗りが追い抜こうと迫った。男は咄嗟に左へハンドルを切ったが、今度は左側を抜けようとしていた若いカップルのバイクが予期せぬ動きに慌てふためいた。

ヘルメット姿の一人乗りは四人乗りのバイクを通り過ぎると、その後も次々にバイクに迫っては追い越し、前方のバイクを追い越そうとしているバイクをも追い越そうとしたので、いよいよ対向車の前へ飛び出した。

カップルを乗せたバイクの後ろのバイクがクラクションを響かせながら追い越そうと車体を右に振り、四人乗りのバイクの前へ出ようとアクセルを踏むと、四人乗りのバイクの男もクラクションを鳴らしながらアクセルを踏んだ。

更に反対方向を走行してきたバイクもヘルメット姿の一人乗りのバイクに向かって警告音を鳴らした。クラクションの音が幾重にも重なった。

カップルを乗せたバイクと四人乗りのバイクがもたついている隙に、私は道路に向かって右足を一歩前に踏み出すと、同じく、その隙を狙って二台一息に追い抜こうと企てたバイクがクラクションを鳴らしながらアクセルを踏んで右側から飛び込んで来たので、私は右足を引っ込めた。右から飛び込んでくるバイクの流れが続いた。三叉路の二方向から来るバイクが時折重なり、いよいよぶつかるというタイミングで二台ともブレーキをかけると、交差点の中心で黄色い砂埃が舞い上がった。

その上に広がる雲一つ無い青い空を見上げた。ノイズがかった青い空。一週間ほど雨が降っていないな、と思った。ちょうどその時、右後方から、ウドゥンを巻いているけれど先ほどとは違う男がやってきて、バイクの流れに足を止めることなく交差点の中心に向かって行った。男が手を広げて「待って」のような仕草で道路に出ると、バイクはクラクションを鳴らすのをやめて停止した。「どうぞ。」という男に促されて、右足を出し、左足を出した。

私は道路の向かい側にある小売店へ向かう途中だった。

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