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バリ島、とある風景| ニワトリ

バリ島の住宅地では、至る所でニワトリを見かける。

カキリマ(手押し車の屋台)が停まる駐車場の端や、4畳半程度のコス(アパート)周辺、ゴミが山積みの空き地、小売店の軒先など、あらゆる場所でニワトリに遭遇するのだ。

それらのニワトリに飼い主がいるのか、ちゃんとエサをもらっているのかはよく分からないが、数羽のヒヨコを連れて地面をついばみながらウロウロしている。

中には籠に入れられ、身動きが取れないままじっと立っているニワトリもいる。籠はニワトリの体より二回りほど大きいだけで、窮屈そうに見えた。

ある日のこと。

私は少し大きめの通りを歩いていた。
とはいえ歩道はなく、道端の側溝の蓋の上を歩くか、蓋のないところでは縁に爪先を引っかけながら進むような道だ。

30分ほど歩き、道幅が少し広がったところで立ち止まった。次の道を右に曲がれば目的地だ。

ペットボトルの水を一口飲んで息を整え、キャップを閉めていたそのとき、突然、側溝の暗闇からニワトリが飛び出してきた。

「わっ!」

勢いよく飛び出してきたニワトリは、ギョロリと私を見つめ、立ち止まった。

目と目が合った。

怯えた様子だったが、ニワトリはすぐに私が無害だと判断したのか、素早く横をすり抜けて、次の側溝の暗闇へと消えていった。

あまりに突然の出来事に私はしばらく立ち尽くしていた。

すると、さっきニワトリが駆け抜けてきた方から、一人の少年が走ってきた。少年は私には目もくれず、ニワトリが走っていった側溝の方へと消えていった。

私は心の中で手を合わせ、ニワトリと少年の行く末をそっと見送った。

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