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外国生まれの童謡の歌詞は1つじゃない(外国曲「あわてんぼうの歌」の事例)

1つじゃない。っていうキャッチコピーのCMがちょっと前にあった気がする…と思ってググったら、もう5年も前でした。1年がマッハで過ぎてゆく今日この頃です。

★見出しにかわいいイラストをお借りしました。いつもありがとうございます!

外国生まれのメロディーに日本語の歌詞がついている童謡はたくさんありますが、その中には、1つのメロディーに日本語の歌詞が2つ以上ついているものも数多くあります。


歌詞違いのパターン

歌詞違いは大きく2パターンあります。
(A)タイトルは同じ(or類似)で、原曲の歌詞の訳し方が人によって違う
(B)タイトルも歌詞も完全に別物

(A)は有名ソングや人気ソングをいろんな方が訳されたのかなと、まだ想像がつきますが、(B)はミステリアスです。今までも「クイクヮイマニマニ」や「お猿と鏡」といった事例に遭遇してきたのですが、また(B)に出会ってしまいました。しかも今回は、1つのメロディーに対して、全然違うタイトル&歌詞が2つどころか5つも6つも7つも…。

ここから同じメロディーの歌がたくさん出てくるので、便宜的に番号を振っていきます。

1960年代

このメロディーは1960年代の日本で大変人気があったらしく、当時の資料から見つけられたものだけで、6種類のタイトル&歌詞がありました。(他にもあるかもしれません)

①あわてんぼうの歌(外国曲、まど・みちお 訳詞)

著作権がJASRACにより管理されているので、残念ながら歌詞を引用できないのですが、あわてんぼうがおつかいをするというユーモラスな内容です。

②もりのおんがくかい(外国曲、北一枝 訳詞)

森の中で動物がそれぞれたてる音を音楽会に見立てた歌詞です。
JASRACにより著作権管理されていないので歌詞を引用します。

1番
よあけの もりでは からすの おばさん 
カアカア うたえば ひがのぼる
こりすは キュッキュッキュッ やまばと ホロホロ
みんなで たのしい あさのうた

2番
ひぐれの もりでは ふくろの おじさん 
ホーホー ふえふきゃ つきがでる
すずむし リンリンリン たぬきは ポンポコポン
みんなで たのしい おんがくかい

松本民之助 著『音楽基礎技法』,音楽教育図書,1962, p.261-262. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2506470 (参照 2024-12-03)

③きつつきとみみずく坊や(スウェーデン民謡、野上彰 作詞)

JASRACデータベースで、「もりのおんがくかい」の副題に「きつつきとみみずく」があったので、本来続編だったのかもしれません。森に住むきつつきとみみずく坊やが描写されています。残念ながら歌詞は引用できません。

④いがぐりぼうや(スウェーデン民謡、森修三 訳詞)

②③の森の動物シリーズの姉妹編のような、森の生き物がいろいろでてくる内容です。
JASRACにより著作権管理されていないので歌詞を引用します。

1番
きのえだ ぐらぐら かぜさんが ゆする 
いがぐりぼうやの ぶらんこ
こえだが ブンブルブン めがまわる クックルク
おててが はなれて トンコロトンコロ ちゅうがえり

2番
さかみち ころころ かぜさんが おすよ 
いがぐりぼうやの ころげっこ
リスさん びっくりこ めだまを きょろろ
ぶつかっちゃ たいへんと ピクチョンピクチョン にげる

3番
やまみち くるくる かぜさんに おされ 
ひるねの クマさんに ゴッツンゴッツンコ
チクチク めがさめ おはなが  あいたたた
びっくりした くまさん ごろごろ ころげる

芸術教育研究所 編『新しい幼児の音楽リズム12カ月』,黎明書房,1962, p.88. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/9544170 (参照 2024-12-03)

⑤くつやと小人(外国曲、小林純一 訳詞)

残念ながら歌詞は引用できませんが、靴屋が寝ている間に小人が靴を作ってくれるという、童話の内容が歌になっています。

①~⑤は全く同じメロディーですが、次の⑥のみ、最後のフレーズがやや長くなっています。

⑥マッチの歌/Schwofelholzle(アルザス民謡、中山知子 訳詞)

残念ながら歌詞は引用できませんが、マッチのCMソング的な内容です。
JASRACのデータベースに「ドイツ民謡小品集より」と出典が記載されていました。

①~⑥の関係性は?

「マッチの歌」は19世紀の宣伝ソング

6曲の中で、⑥「マッチの歌」だけ他と雰囲気が違います。途中までは他と同じメロディーですが、終盤が少し長いのと、何より出典が明確です。
この歌(Schwefelhoelzer)は、ドイツの民謡データベースによれば、19世紀のUnique Songであり、歌詞の内容から明らかにマッチの宣伝ソングと考えられるそう。つまり、当時のマッチ商人が作ったオリジナルのマッチ宣伝ソングということでしょうか。
folk tune finderでメロディーを検索すると、マッチの歌(SCHWAEFELHOLZE)ともう1つ、マッチポルカ(Polka des Allumettes)がヒットしました。マッチの宣伝ソングの出来が良く、大ヒットしてフォークダンスにまでなったようです。今に続く楽しい踊りです(↓)。

他はスウェーデン民謡(アメリカ経由)が原曲?

出典の明確な⑥に対して、①~⑤は、メロディーは全く同じですが、外国曲といってみたり、スウェーデン民謡といってみたり、何だかよくわかりません。また、JASRACデータベースを見ると、5曲のうち4曲が訳詞ということになっていますが、歌集によっては作詞と記載されているものもあり、やはり何だかよくわかりません。

実は、この曲は戦前アメリカ経由で日本に来ているので、①~⑤は、そのメロディーに日本オリジナルの歌詞をつけたものではないかと、個人的に思っています。

戦前

⑦Woodland Lessons/林間(Swedish Folk Dance、Caroline Fuller 作詞、小林愛雄 訳詞)

1930(昭和5)年に出版された『世界音楽全集』で、メロディーが①~⑤と同一の歌が紹介されています。
スウェーデンのフォークダンス曲に、アメリカ人のCaroline Fullerさんが作詞をしたものです。アメリカでは、1914年出版の歌集『The Progressive Music Series』などに全く同じ歌が入っています。

JASRACで管理されてないようなので日本語の訳詞を引用します。併記されている英語は日本語の内容に近いと思います。

あしたの やすみは、をがわの ちかく
はな咲く 野はらに 行きませう
ごほんを すてて、はやしの かげに、
たのしく からだを きたえませう

『世界音楽全集』10,春秋社,昭和5, p.150. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1870707 (参照 2024-12-03)

なお、「Woodland Lessons」の別訳バージョンが、「夏休み」というタイトルで、戦後、1953(昭和28)年に『世界童謡名曲集』(山本芳樹 著,中央音楽出版社)に載っていました。戦後になってもこの歌は忘れられることはなかったのかなと思います。

⑧私は覗く/I See You(瑞典童謡遊戯、Swedish Singing Game)

⑦で言及されていたスウェーデンのフォークダンスが、1916(大正5)年に出版された『各国民踊小学ダンス』で紹介されていました。

スウェーデンのフォークダンスといっても、英語タイトルがついていて、やはりアメリカ経由で日本に来たと思われます。

アメリカでは、1909年にオリジナル版が出版された『 Folk-dances and singing games: twentysix folk-dances of Norway, Sweden, Denmark, Russia, Bohemia, Hungary, Italy, England, Scotland and Ireland, with the music, full illustrations』に、同じタイトルのフォークダンスが載っていました。

この⑧は①~⑦と少し違って、まず導入部分があり、その後でおなじみのメロディーを歌い踊ります。(↓)

⑦と⑧の関係性

アメリカにスウェーデンのフォークダンス曲として伝わっていた⑧があり、そこから、キャッチーな後半に新しく歌詞を付けた⑦が生まれたと思われます。

⑦と①~⑤の関係性

スウェーデンのフォークダンス曲⑧から派生した林間・夏休みの歌⑦が、まず②~④の森の歌(スウェーデン民謡)になり、その後①⑤の町の歌(外国曲)も生まれたのかな?と想像しています。

⑥と⑧の関係性

⑥のマッチ宣伝ソングから派生したマッチポルカと、⑧のアメリカにあったスウェーデンのフォークダンスに何か関連があるのでしょうか。自由に想像するならば、⑥がスウェーデンに伝わり、さらにアメリカに伝わって⑧になったのかなと思います。スウェーデン語の得意な方、ぜひ調べてみてください!

まとめ・結論

「あわてんぼうの歌」や「マッチの歌」など、1960年代ごろからいろいろな歌詞で歌われた外国民謡由来のメロディーは、アメリカからスウェーデンのフォークダンス曲として入ってきたものと、アルザス民謡としてドイツから入ってきたものと、少なくとも2種類のルーツがある。


日本の外国曲はアメリカ経由が多いですが、ドイツ経由もあり得るのだなと、この事例から思いました!