人妻の外泊
婚外の相手で既婚者だったのは1人だけ。
当然のごとくお泊まりをしたいなどと言ってこない相手だった。彼にも家庭があるから私にとってはとても都合が良い相手。
職場の同僚だった彼とは社員旅行で1泊した事がある。規模の小さな会社だったので男性と女性とで別々の部屋で雑魚寝スタイルで就寝。のはずが、みんな酔っていたので男女入り乱れてたしか私は彼の隣に眠った。真面目で大人しそうな見た目とは裏腹に恋愛脳の持ち主だった彼はすぐそこに同僚が寝ているというのにセックスを求めて来て、私もそれを受け入れたけれど今思い出しても全くときめかない思い出。
あの人は別れる時まで私とのセックスに執着していて
〝aoiとしていた、あんな風に愛されていると思えるようなセックスはもう一生できないと思う″
そりゃ、その人を好きな間は愛しさが溢れてしまうようなセックスをするよ。
でもその頃の私は彼をもう散々味わいつくしてしまっていたから、執着はなかったし今日はその事を語りたいわけではなかったのについ長くなってしまった。
先に書いたようにほとんど独身の人と会ってばかりなので、相手が学生のように若いと何度か会ううちに必ず言われる。
〝aoiさんと泊まりたい″
普通は、出来るわけないって想像できるでしょ?こっちは人妻だし。などと思ってしまうところなのだが、人妻である事もこちらの勝手なわけで、だから私は優しくこう答える。
「んー、、私もお泊まりしたいけどすぐは難しいかなぁ。いつかしようね?」
〝そうですよね、、ごめん。うん、いつかしたいです″
若い男の子は素直で可愛い。
ほとんどこんな風に答えるのだけれど、私がどうしても当時の相手と夜を過ごしたくて外泊した事が2回だけある。
ちなみに結婚生活を送る中で旅行や諸々、もちろん家を空けることはあるわけなんだけれどあくまで婚外目的での外泊という意味では2回。意外と少ない?
ウソっぽいかな、、根は真面目なのよ。
出会った頃、彼は某有名私立大学の学生だった。ここでもよく彼の事を記事にした。未だに数ヶ月に一度のペースで連絡が来るが2年以上会っていない。彼はもうすぐ27歳になる。
初対面で1人暮らしの彼の家に行った。昭和の映画かドラマに出てきそうな2階建の古いアパート。
2階の部屋に上がる階段を上るとカンカンカンとヒールの音が響いてしまう。
思わず〝すごいね″と言ってしまった記憶がある。
今までの人生では出会った事がないようなタイプで私は衝撃を受けた。
今思うと、見た目の良い高学歴の大学生に免疫がなかっただけなのかもしれない。
でも私は彼をとても好きになってしまったのだ。
大学生といえども成人しているのに、どこか頼りなさげで儚い感じがする人で、奔放で自信家のような振る舞いとのギャップに惹かれていつのまにか彼のことばかり考えてしまうようになっていた。
月1ペースで会うようになってから数ヶ月、会う約束をしたその後、めずらしく彼から追いLINEがきて
〝aoiさん、その日泊まれる?泊まりたい。お願い″
いつもならやんわりと断る。
だけどその時の私は即答してしまった。
「わかった。いいよ。」
約束の日は数日後。
家族になんて言い訳をしよう、、
直後から頭の中はその事でいっぱいだった。
世の中には奥さんが外泊してもなんとも思わない旦那さんもいる。
しかし、我が家の夫は「外泊=浮気」という思考回路が強く働くから厄介なのだ。
、、まぁその通りだから私も面倒だと思ってしまうのだけれど。
でも、浮気じゃなくたって家に帰りたくない日くらい誰にだってある。その立場が妻であり母であっても。
子供がいるから母性と理性で踏み止まっているだけなのだ。なにより一番大切なものだから。
私は葛藤しながらも尤もらしい理由を考え外泊する事を夫に伝えた。
相談ではなく、報告として。
「好きにしろよ」
こう答える時の夫が私は大嫌いだった。
この言葉には
「俺の言う事が聞けないならもういいから」
という意味が含まれているから。
数日後、待ち合わせに現れた彼は嬉しそうに手を振って近づいてきた。
いつもみたいにラフな服を着て。
1人暮らしの彼の家には事情があり彼のママが少し前から居候していて、その日は私を家に呼べないから外で一緒にいたかったのだと話してくれた。
泊まるホテルの駐車場に着くと、60代くらいの男性とお相手が出てきたところを見かけた。
〝あんな歳でもセックスするのかな?″
彼は呟いた。
「するよ。失礼でしょ?」
私は言ったけれど、まだ22歳の彼には想像できないんだろうな、、と歳の差を感じさせられた瞬間でもあった。
部屋に入ると何度も会っているのに緊張してしまって変に明るいテンションで当たり障りのない会話をしていたような気がする。
逆に長い時間一緒にいた事がないから戸惑ってしまっていたのだと思う。
隙を見て彼との事を話していた友人にLINEした。
〝aoiちゃんが泊まってくれて嬉しかったと思うよ?楽しんでね″
彼女の言葉でなんとなく安心したのをよく覚えている。
いつもより丁寧な、時間をかけたセックスを終えて疲れて少し眠ってしまった彼を横目に、もうすっかり暗くなった窓の外を見ながら悲しく不安になったのは、私が既婚者だからだ。
彼との関係が儚いものだからではない。
長い時間〝人の妻″をやってきた私は周りが思っているより人妻の自分にこだわっている事を再確認してしまうせいだ。
誰といても幸せな時間の後に必ずこの気持ちがやってきてしまう事に軽く絶望するような、自由というのは環境ではなく心の問題なのかもしれないなと感じて。
そんな事を考えているうちに目を覚ました彼がベッドの中から
〝、、ん″
とスペースを空けて私を呼び寄せた。
そこに潜り込み、束の間の温かさと愛などと勘違いしてしまいそうな感情を抱えて目を閉じる。
10月の始め。翌朝は暑いくらいのお天気で2人で観覧車のある大きな公園に行った。
帰り際お互いに、ありがとう。またね。
と言って別れ、
私達はまたそれぞれの日常に戻る。
何も変わらないようでいて、
全てが変わった日。
急にこんな思い出話を書きたくなったのは
お気に入りの大学生から
〝週末泊まっていい?″
と聞かれたせいかもしれない。
今日仕事が終わったら、新しい部屋で使う寝具を買いに行かなくちゃ。
この話も、またいずれ。