2万5千円の部屋で、春を待つ
18歳までを過ごした本州最果ての村は、波の音が子守歌だった。雲が低い日はごうごうと海鳴りが響く。静かな夜、というものを、経験したことがなかった。
大学に入学して、ひとり暮らしをすることになった町は、四方を山に囲まれた、のどかなところだった。
選んだ部屋は、8畳の洋室に4.5畳のキッチンという1Kの部屋。古い建物だったけど、リフォームしたてだという部屋は綺麗だった。ここにしよう、と母と決めた。
決め手は家賃だった。破格の2万5千円。学生の多い町だったけれど、それにしても安