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エスカレーター〜ハッピーママ


母の脚の力が、だんだんと弱まっていった頃のことです。

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ママと食事を終えてお店を出た。下りのエスカレーターに乗ろうとした時、ママの足が動かなくなった。タイミングが測れずに怖くて足が出ない。エスカレーターを見れば見るほど足がすくんで動かないと言う。

「私につかまって、一、二の三で足を出してみて。」と言って何度も試すがうまくいかない。
私が先に降りてしまえば必死になって後ろからついてくるかもしれないと思って試したが、下に着いたのは私だけだった。

ママはエスカレーターの上で固まっている。もう一度上りのエスカレーターでママのところまで戻った。ママはこのエスカレーターには絶対乗れないと言う。でも、帰るためには乗るしかなかった。

今度はママの腕と上半身をしっかり支えて、ママと一体になる。
「私が、一、二の三!って言ったら一緒に足を出すんだよ。ギリギリのところまで近づいて」と言って準備をする。

「行くよー、いい?いーち、にーのさーん!」と声をかけて踏み込む。ママの足も出た!その瞬間、ぐんと早いスピードでエスカレーターが下がる。同時にママは「うわー!」と大きな声を出して後ろに仰け反った。

私はママの全身をしっかり支える。ママは軽いので思ったより力は要らなかった。ほっとした瞬間、さっきのママの叫び声がなんだかおかしくて、私はエレベーターの上で笑い出してしまった。

無事エレベーターから降りると、ママは怖い思いをして「美味しく食べたもの、みんなどっかへ行っちゃった」と言うので、また笑う。

ママ「やっぱり歳をとって、どこかの神経が反応しなくなったのね」と言うママに悲壮感はなかった。

歳を重ねていくと気持ちではできると思っていても、実際には体が動かなくなる。それを悲観的に捉える人もいるけれど、ママは悲観的でも楽観的でもなく客観的だった。

無事にエレベーターを降りることができて、ママも私もニコニコと家路についた。
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母の身体機能が弱まっていくのを、私が自然に受け入れることができたのは、母の素晴らしさを感じていたからだと思います。

素直で明るい。よく笑いよく食べる。今を一生懸命楽しんでいる。目の前で転んだ人がいれば、自分の方がヨロヨロしているのに大丈夫ですかと駆け寄っていく。尽きない好奇心…母が長生きした秘訣だったかもしれません。

ハッピーママのハッピー娘


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