ママの感動
社会人になって20年。勤めていた会社で希望退職者の募集がありました。
「よし、これからは自分の人生を自分で切り開いていこう」と意気揚々と辞めてはみたものの、思ったように物事はうまく進みませんでした。
それから1年、2年と過ぎ、頼りにしていた友人とうまくいかなくなり、この先どうしたらいいのかと思い悩んでいました。
そんな時、母が病気になり、日々看病に追われるようになりました。仕事を見つけなければいけないのに、母の看病が忙しくて思うように動けない。母の看病でクタクタになり、自分のことが先延ばしになってしまう。
私は不安とストレスでいっぱいになっていました。そして、とうとうある日、病に臥せっている母に向かって怒鳴ってしまいました。
「私はママの看病をするために会社を辞めたんじゃない!」
そう言った途端、涙がボロボロ溢れました。ベランダに出て空を見上げながら泣きました。母にひどい言葉を言って傷ついたのは自分でした。悪いのは母や状況ではなく、自分の力の無さだと自分がいちばんよくわかっていました。自分はなんてダメなどうしようもない人間なんだろうと自分を責めました。
やがて気持ちが落ち着き、母に謝ろうと母の部屋に行きました。母はベッドに横たわり、じっと天井を見つめていました。そして上を向いたまま、独りごとのように静かに言いました。
「今、あなたが生まれたときの感動を思い出していた」
思いがけない言葉でした。
母も私も、それ以上は何も言いませんでした。私は透明な静けさに包まれました。
その後、私はこのときの母の言葉と光景を何度も思い出しました。私が生まれたときの母の感動に想いを馳せ、自分の胸でその感動を感じてみました。
母の感動は、私が何ができるとかできないとか、そういうことと私のかけがえのなさは全く関係がないことを教えてくれました。
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「ママ、こんなにステキな私に育ててくれてありがとう!」と母が生きている間に伝えられたことは、とても幸せなことだったと思います。
ハッピー・ママのハッピー娘