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Mama in Paris

母の初めての海外旅行は、1ドルが340円の時代。病院の視察と観光を兼ねたヨーロッパ旅行でした。旅から戻った母は、スイスアルプス山脈の最高峰ユングフラウヨッホに感動したと、目を輝かせながら何度も話してくれました。

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旅の最終日はパリ。ホテルでディナーを終えた後、オプショナルで添乗員さんがディスコ(クラブ)に連れて行ってくれると言う。日本ではディスコブームが始まる前のこと。

どんなことでも一つ残らず体験して、思いっきり楽しもうと思っていたママは、もちろん行った。
パリのディスコは洗練されたおしゃれな空間。中央にはダンスフロアが広がり、周りにはテーブル席が並ぶ。

ママたち御一行様は、奥の方の席に座りディスコの雰囲気を楽しんでいた。ふとママは思った。ここに来て踊らないなんてもったいない。「踊りましょうよ」と周りに声をかけるが、皆、首を横に振る。日本でディスコに行ったこともない。踊れないし、恥ずかしいと。

自分だってディスコに行ったことはない。ダンスも知らない。でも、ここで踊らないなんてもったいない!

そう思ったママは一人立ち上がり、ダンスフロアに向かった。そして所狭しと大勢のペアが踊っている中に入っていく。

どう踊ればいいのか?ママは一瞬考えた。自分が踊れるのは…大好きな盆踊りだ!ママは流れてくるダンスミュージックに合わせて炭坑節の振りで踊り始めた。どんどん楽しくなった。夢中になって踊った。

ふと気がつくと、周りの人たちがいなくなっていく。そのまま踊っているとさらに人は引いてゆき、やがてママはダンスフロアにたった1人になった。これにはさすがのママもちょっとびっくりした。

踊っていた人たちはダンスフロアの周りに立ち並び、ママに注目している。みんなの熱い視線を浴びながら、ママは途中で止めるわけにはいかないと思って、曲が終わるまで楽しく踊りきった。

踊り終えた瞬間、大拍手、大喝采の嵐。
パリで一夜の盆踊りクイーンになったママだった。
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子供だった私はスイスの山の話より、パリのディスコの話の方が面白くて目を輝かせて何度も聞きました。

ハッピー・ママのハッピー娘


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