生きてこそ…だろ!自分を信じて運命と戦うアニメ「逃げ上手の若君」の魅力
私は歴史が苦手だ。歴史自体にあまり関心がなく、必死で勉強しても試験が終わればすぐに忘れてしまう。自他ともに認める歴史オンチ。
だから本作の登場人物も、知っていたのは足利尊氏くらいで、その足利尊氏でさえ名前を知っている程度で、作品の視聴意欲もそれほど高くなかった。
だが、私が「アニメ・漫画の師匠」と崇める友人が本作を「絶対に見てほしい!」と、強く推してくる。それが「逃げ上手の若君」だった。
彼女が勧めるアニメはとにかく面白い。ハズレだったことがない。苦手な歴史物だが、一度見てみるか…と重い腰を上げ、第1話を視聴した。
本作の主人公は、鎌倉幕府第14代執権、北条高時の次男、北条時行。もちろん私は知らない。
北条家が執権として鎌倉幕府を支えていたのも、恥ずかしながら大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で初めて知ったくらいだ。
予備知識ゼロで見始めると、当時8歳だった愛らしく無邪気な時行と、人々の笑顔が溢れる平穏な鎌倉時代の日常が、一瞬にして血生臭い殺戮描写へと切り替わり息をのむ。
可愛らしいキャラクターデザインとは対照的に描かれるグロテスクな映像。そのギャップに驚き、そして昨日までは友人であり、味方であった人間が、次の瞬間、自分を殺す敵となる時代があったという事実をリアルに感じておののく。
足利尊氏の謀反による鎌倉幕府倒幕劇で幕を開け、戦って討ち死にするか、自害することが名誉とされた時代に、北条時行が天才的ともいえる「逃げ」の才能を発揮し、如何に鎌倉奪還を遂げていくかがコミカルに、テンポ良く描かれている本作は、まさに傑作。
あっという間にその世界観に引き込まれ、1話の視聴後すぐ、北条時行をネットで検索した。
正直、歴史上の人物に興味を持ったのも初めて、歴史を面白いと感じたのも初めて、歴史オンチがわずか30分のアニメにそれほど魅了されたのだ。
しかも鎌倉幕府が150年近くも続いていたことを知り、びっくりした。恥ずかしい。
原作は、「魔人探偵脳噛ネウロ」「暗殺教室」で人気の松井優征氏の同名人気漫画(週刊少年ジャンプにて連載中)。
命が危うい状況の中で「逃げる」時行の表情は、恍惚感に溢れ、遊びに興じる子供そのもの。静止画では表現が難しい躍動感が面白さを加速する。
歴史上、実在した人物であれば当然、結末はわかってしまうのだが、そんなネタバレも全く気にならないほど時行の「逃げの才能」が魅力的に描かれる。
人を思いやる優しさと、絶対に人を裏切らない誠実さで、周囲の人々の信頼を得ていく時行。彼が辿るであろう数奇な運命と戦いの結末に、興味が掻き立てられる。
DISH//が歌うオープニングテーマ「プランA」には、「名誉の死がなんだ。死んでしまっては見返すことも、復讐することもできないじゃないか。すべては生きてこそだろ!」とある意味、開き直りともいえる時行の生き様が現れているが、これはストレスの多い現代社会にも必要な生き方なのかもしれない。まさに「逃げて勝つ!」なのだ。
9月の第1期放送終了時にはアナウンスされずガッカリしたが、その後、第2期の制作が発表され、ホッと一息。アニメの制作には時間がかかるので、時行たちに再び会えるのはしばらく先になりそうだが、配信やBlu-RayやDVDで第1期を復習しながら、楽しみに待ちたいと思う。