落とし物にはご注意を〜四国遍路日記 2日目〜
朝を迎えた。
出発日は課題に追われ、当日は夜行バスだったので、久々によく寝れた。
目が覚めた後、恐る恐る起き上がる。
……多少の筋肉痛があるだけで、至って元気だった。
歩き遍路は毎朝かつてない倦怠感に襲われるとの体験記を度々目撃していたのでビビッていたが、なんともなかった。
そもそも私は四国に来る前から……高速バスに乗る前から風邪気味だった。
風邪気味なのに3万歩あるくという気の狂ったことをしていた訳だが、寧ろいつもより元気だった。
十楽寺公明会館では、朝のお勤めに参加出来る。
6:30、本堂に向かった。
本殿の仏像とお坊さんのお経を間近で見れる。
周囲には「南無大師遍照金剛」と書かれた白衣を着た年配の方々しか居なかった。
ジャージを着た若者は私だけだった。
せめて白衣くらいは着てくれば良かったと思った。
共にお経を読み上げる場面があった。
お坊さんの回教偈? は何言ってんだか正直よくわからんかった。
般若心経辺りから言葉が聞き取れた。
流石なのか、ある意味当たり前なのか、
お経をお坊さんが読むと、やっぱり雰囲気が違う。
朝のお勤め終了後、食堂に行って朝食を食べに行った。
朝食は塩分がすごそうだった。ご飯のお供が充実し過ぎている。
納豆、梅干し、味付けのり、生ふりかけっぽい雰囲気のひじき、味噌汁、焼き鮭……。
ご飯のお代わりをする人が多数。
とりあえず、ひじき以外は全部食べた。本日も沢山歩くからね。
(一応、ひじきも美味しかったよ)
ただ朝食を食べているだけなのに感動してしまった。
初日はおにぎり3個とカロリーメイトだけで一日を過ごしている。
もう、ご飯が食べれるだけでありがたい気持ちになってきた。
公明会館を出る直前、老夫婦が立ち話をしていた。
話の内容を要約すると、こんなかんじ。
「明日のすだち庵はキャンセルして、もう帰ろうか」
すだち庵とは、12番札所焼山寺のある山を下ってすぐの所にある宿の名前だ。
目の前に歩き遍路脱落者が現れたのを目撃してしまった瞬間だった。
その後、十楽寺公明会館をチェックアウトして、十楽寺のお詣りをしようとして気づいた。
手袋が片方無いのである。
係の人の許可を得て、慌てて泊まった部屋に戻る。
ない。
昨日の安楽寺の時点ではまだあった気がする。
恐らく、安楽寺と十楽寺の間の道のどこかで落としたのだろう。
気を取り直して十楽寺の境内を見た後、納経を済ませ、お寺を後にした。
もう朝の8時を回っていた。
仕方ないので以降は防寒兼日焼け対策で、予備の手拭い(ガーゼタオル)を片方の手に巻きつけることにした。
次の熊谷寺に行く前に、私にはやらねばならないことがある。
昨日借りたお金を返さなければならない。
郵便局に寄り、お金を下ろし、遍路道を外れてコンビニに寄り、慶忌袋(封筒がこれしかなかった)を買い、昨日教えてもらった住所を書いた。
この時寄ったコンビニでは、アンダーウェアやキズパワーパッド、その他行動食等、歩き遍路を意識したような商品のラインナップだった。
ここで本日の昼食とおやつ、そして容器が線香入れに便利と噂のマーブルチョコレートも一緒に買った。
レジ袋をリュックに結び付け、マーブルチョコレートだけウエストポーチに入れた。これが後の命運を分ける。
郵便局に戻って切手を買おうとしたら、郵便局員につっこまれた。
「まさか現金とか入ってないよね?」
「入ってます。」
「現金書留をお勧めするよ」
現金を送るときは現金書留にするのかと、この時初めて知った。
スマホのメモに以下の記述が残されていた。
後々、この損失の何倍も色んなもの返ってくるが、この時はそんなこと知る由もない。
安楽寺の手袋を無くしてあたふたしていた時間も含め、この時点で1~2時間のロスが発生していた。
熊谷寺に着いたのは10:30くらいだった。
凄く古そうな見た目をしていた。
次に、法輪寺に向かう。
もう12時を回っていた。
納経後、次の切幡寺へと向かう。
遍路の格好のマネキンが置かれた休憩所があったが素通りし、しばらく遍路道を進むと緩やかな坂が見えてくる。
坂の途中にあるベンチで軽食を食べた後、再び坂をのぼる。
途中で道を間違えるが、仁王門が見えた。
納経後、階段を降り、途中にある休憩所でおにぎりを食べる。
そこで明日の宿(予定)のすだち庵に連絡を入れた。
無事予約を取ることが出来た。
遍路道を歩いていたら、遍路小屋を発見した。
遍路小屋で休憩した際、私は気づいてしまった。
リュックに結び付けていたはずのビニール袋が無い!
手袋に続いて遍路道にまたもや落し物をしてしまった。
故意ではないとはいえ、気が引ける。
罪悪感から、遍路小屋にあった異臭を放つ物体(放置されていたゴミ)を持って行こうとしたら、後からやってきた同じく歩き遍路のおばさんに止められた。
「あなたがそれを持っていく必要はないって!」
持って行ったところで、宿の人に異臭を放つ物体を押し付けることになってしまう。
遍路小屋の管理者を信じてそのままにした。
リュックに結び付けていたはずのビニール袋には未開封の食料とお菓子が入っているはずである。ナマモノは無い。
「拾った人はラッキーな袋として、誰か食べてくれ」と思いながら遍路小屋を後にした。
スマホのメモに以下の記述が残されていた。
今になって見返すとケチくさいメモだが、まあまあの金額ではある。
しばらく歩くと、川が見えてきた。
橋を渡った後、車が目の前で停車した。
「どこまで行くの?」
「11番近くの宿まで行きます」
「この先あと1時間半以上掛かるよ。送ってくよ」
車の接待を提案された。
おじさんに。
もし、これを承諾すると、
車内で見知らぬおじさんと2人きりになってしまう。
「とりあえず、頑張って歩いてみます」
「日が沈んじゃうよ?」
少々粘られたが、私は歩みを進めた。
16時になったが、ひたすら畑と林とコスモスしか見えない道が続く。
早歩きで進む。
写真を撮った時は車が居なかったが、この橋、車通りが多い。
しかも、すぐそばを車がビュンビュン過ぎ去っていく。
こんな橋の上なのに。
ある程度進むと住宅街が見えてくる。
小走りで遍路道を進む。
急に身体に違和感を感じる。
まずい、バテる。
このままだと動けなくなりそうな予感がする。
でも、ここで立ち止まる訳にはいかない。
食料の入った袋を落としちゃった上に、郵便局以降コンビニに出会えない。
そーいや、お昼はおにぎり1個とクリーム玄米ブラン小袋1つ分しか食べてない。
そんな状況下で数㎏の荷物を背負って、
3万歩近く歩いて……いや、小走りして、
そりゃあ糖分不足してもしゃあない。
あっ、
マーブルチョコレートがあった。
その後、ウエストポーチに入れたが故に食料ロストから免れたマーブルチョコレートをバテそうになる度に口の中に放り込む。
ひたすら進む。
マーブルチョコレートが尽きる。
でも、Googleマップ曰く、あと数分で着くらしい。
日の入り数分前に、本日宿泊する旅館吉野に到着。
なんというか、疲れを感じた。
とりあえず、空になったマーブルチョコレートの容器に線香を詰めた。
とても美味しそうな夕食が出たが、
実のところ、私、肉全般が苦手である。見ての通りトンカツが出た。
これは翌日、山登りを控えている為、体力がつくようにと出されているメニューらしい。
私は「遍路中に出された食事は出来るだけ全部食べる」と決めていたので、食べた。
トンカツが美味しく感じた。
その後、私は「苦手だったはずのお肉が美味しく感じる魔法」にしばらくかかった。
☆本日の歩数
34418歩
*本日の出費*
食べ物とポチ袋 771
現金書留 585
納経 300×4
お賽銭 15×4
洗濯 100
宿 7300 (旅館吉野 2食付き)
計 10016円
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