つぶやき物語【看取1~20 】のまとめ(冒頭に中書き④追記)

【看取21】~は、1/13(月)スタート(o^-^)b ※物語の最初からお読みの方は【中書き④】を、初めてお読みの方は【前書き】から、ご一読頂けると大変嬉しいです。
【中書き④】
 実家へ見舞いに行くと呑気にTVを観ていた父が、急に私へ視線を向け、病室を訪ねた際に渡した腕時計に言及するが、自分が身に付けていた物を差し出したのは彼なりの形見分けだったのかもしれない。
 ところで病気の方は、勝手に脱走したので元の病院では診てもらえない為、自宅での療養に切り替えるべく訪問医師を依頼すると、父は痛み止めの薬だけは嫌々ながらも服用。
 続いて介護認定を申し込むと、数週間後に市の担当者が尋ねて来るが、程度の状態かを調査しようと簡単な質問した途端、馬鹿にされたと感じた父は怒鳴り出す。
 そして何とか要介護の認定を受けたのでケアマネを観付けると、とにかくお喋りな人で、介護される父の事は適当にあしらい、本丸と見た母へ次々と計画案を説明し始めた。
【看取21】
へ続く。
~・~・~
【前書き】

 若い方でも居られるかもしれませんが、ある一定の年齢以上になると、両親共に逝去されている場合が多いと思います。
 私は16年前に父を、4年前には母を亡くしましたが、還暦を迎えるとそれも珍しくは有りません。
 しかし介護もしておらず、現役の会社員だった私が、両親共に看取る事が出来たのは、息子としては有り難く果報者。
 そこで今回は、父との関係性や長男としての複雑な思いを、つぶやき物語として綴って行きます。

看取1【生き仏の如き様】
ベッドの傍らの椅子に腰掛け、眠る父の胸を摩り続けていた。
「この人はどうして、私をあんなに嫌ったのだろう」と、心の中で呟くと、ふと漏らす深い溜め息。
半年以上も意識は戻らず、呼吸器には繋がれているが、目を閉じたその表情は穏やかで、元気な時に見た記憶は殆ど無い。

看取2【合点し当然の報い】
遡る事4年前、父が入院したと母から連絡が有り、息子3人が召集される。
肺に癌が出来ていて、検査結果から早期発見であると診断されたが、取り急ぎ摘出手術が必要との説明。
1本でさえも吸わない人なのに、パチンコ屋に通い詰めた挙げ句の、受動喫煙の弊害が齎されたのだ。

看取3【仇となりし画策】
父が厄介だったのは、自分勝手に振る舞う反面、気が弱い臆病な性格の持ち主。
彼のすぐ下の弟が、「癌と判ると兄貴は落ち込むから、言うなよ」と戒厳令を敷き、完璧に実行された。
この頃は告知が義務化されておらず、本人へは只の腫瘍と伝えたが、結果的には見事に裏目と出る。

看取4【後は野となれ】
医者嫌いの為に手術初体験となったが、「生命保険から金が出るから、もらったら競馬に使える」と上機嫌。
そして摘出は成功に終わったが、給付額を増やそうと退院を渋り、先延ばしを図る。
結果的にリンパ節へも転移は見られなかったが、父は治療を続ける事を微塵も考えなかった。

看取5【因果応報の狼煙】
手術の2年後、「肺癌が再発し、今回は胃にも転移している」と、母からの緊急連絡。
父は退院以降、診察や検査を一切受けず、好き放題に過ごしていたが、紛れも無い天罰は末期へと誘う。
医師は私達へ「もう帰宅は叶いません、そのつもりで」と言い放ち、余命数ヶ月と宣告した。

【中書き①】

 「今日が峠です」と、往診に来た医師の言葉から息子3人が呼び集められたが、母と弟たちは2つ向こうの部屋へ移動し、父の傍らには私が1人残された。
 意識の無い父の胸を擦りながら、私を嫌い続けた父への恨みとは裏腹に、眠る寝顔の穏やかさに抱く安堵感。
 この2年前に父は肺癌を発見されるが、叔父の強引な主張に押され、癌の告知をしなかった為、入院してお金がもらえる状況にはしゃいでいる。
 その結果、手術は成功して転移も無い状況が逆に災いし、退院後は診察や検査を一切受けない為、肺の癌は再発し胃へも転移した揚げ句、余命数ヶ月と宣告された。

看取6【悲しみ無き終焉】
病院の廊下で母と息子達が集まり、医師の告知からは、持って年内の命であると理解した。
ここで下の弟が、「親父が先で良かったな」と言い出すと、みんな一斉に大きく頷き、誰も挟まぬ異論。
もし彼が後に残ったら、面倒を見るのが厄介との意味だが、関係性の歪みが露わになる。

看取7【継承されし悪癖】
前回と同じく父は自分の病状を知らず、また給付金をせしめる事が出来る位に軽く考えている。
私が見舞いに行くと元気一杯で、周囲へ聞こえるのも憚らず、喋りまくる医師への文句。
この調子では、かつて祖母がされた様に、強制退院を宣告されるかもしれないと、不安に襲われた。

看取8【零れし魂の喘ぎ】
見舞いの翌日、父が病室で騒ぎを起こしたと、母から連絡が入った。
その模様を聞くと、「建物の下敷きになるぞ、早く逃げろ」と、部屋中に響く怒鳴り声。
主治医は、「幻覚を見たのでしょう」との診断をしたが、私には少し引っ掛かる事が有り、恩師に相談してみようと思い立つ。

看取9【授かりし使命】
御霊様を祀って頂いている教会へ参拝し、病院での騒動についてお尋ねした。
一部始終を聞いた恩師は、「見られたのは予知夢であろう」と、賜るお言葉。
「あなたは今日お父さんの所へ行き、話を詳しく伺って、私へ伝える際は自分の感想は加えずそのままで」と、指令を発せられた。

看取10【息吹き返すが如き豹変】
見舞いに行くと、こっぴどく叱られたのか、父は借りて来た猫の様に大人しい病人然。
私は「教会の若先生から詳しく話を聞かせて欲しいと言われた」と告げ、ベッド脇の椅子へ腰掛けた。
すると憔悴し切った彼の表情は赤みを帯び、その際の情景を一気呵成に捲くし立てる。

【中書き②】
 母を始め私を含めた子供全員が、父の余命宣告を聞いても悲しまない状況から、歪んだ家族関係が伺える。
 そんな中、病気の正体を知らない彼は生保給付金の皮算用をしながら、傍迷惑を考えず喋り捲る不平不満。
 その父が病室で大声を出して騒ぎを起こしたと連絡が入った事から、私は恩師へ相談すると、詳しく話を聞いて来る様にと指示が出る。
 見舞いに行き恩師の話を伝えると、生気の無かった彼の表情は一変し、自分の見た情景を滔々と捲くし立てた。

看取11【披露されし予知夢】
父の口述を聞き取ると、自分の感想が混ざらない様、詳細を忘れない内にと、急ぎ参拝する。
「赤ん坊を抱いた女性がぽっかりと開いた大きな穴の淵に立っていたので……」と、報告する彼の見た情景。
目を閉じたまま私の話に耳を傾けていた恩師は、「なるほど」と深く頷いた。

看取12【手繰り寄せし命綱】
目を見開いた恩師は、「赤子は父上で、佇んでおられる婦人は30年前に亡くなられた彼の母君じゃ」との説示。
「このままでは幽世へ連れて行かれる、参拝は叶わんか?」と私へ問う。
外出が許可されない旨を伝えると、「お導きせんといかんな」と先生はご祈念を始められた。

看取13【呑気な終末期】
翌日の昼に母から連絡が入り、父が勝手に病院から家へ戻って来たとの事。
詳細を訊くと、看護師の目を盗みパジャマのままで、階段を使って抜け出すと、タクシーを捕まえて帰宅したらしい。
今の様子を尋ねると、余命を聞かされていない彼は、何喰わぬ顔でお茶漬けを食していた。

看取14【嘆き止まぬ伴侶】
脱走行為に呆れ果て、その日は実家を訪れなかったら、夜にまた電話が鳴る。
父が昼過ぎに突然、「おい、教会へ行くぞ」と言い出すと、母へ介助を命令しタクシーにて夫婦で参拝。
「今まで殆ど行かなかったくせに」とぼやき、「病院へ謝るのも私だし……」と愚痴を溢し続けた。

看取15【掌中に収めし百薬】
私が教会を訪れると、「あんたのお父さんは『先生、儲けましたわ』と言いながら来られた」と恩師は苦笑い。
歩行が困難な為、玄関で靴を脱ぐと杖は使わず、畳の上を這う様に駆け寄ったらしい。
その後も2回の参拝を果たしたお陰で、余命は1年半以上も延びる結末を迎えた。

【中書き③】
 病床で父が見た情景は、大きな穴の淵に赤ん坊を抱いた女性が立っていたので、危険であると伝えたかったそうで、私の話を聞いた恩師は大きく頷いた。
 赤ん坊は私の父、婦人は私の祖母であり、三途の川を渡ろうとしていたと謎を解き明かし、参拝に導く事で救おうとするその命。
 すると翌日の昼、父が看護師の目を盗んで病院から脱走し、後始末で嘆く母を無理やりお供に従え、不自由な体を省みず、突然の参拝を果たす。
 その際に父は、「先生、儲けましたわ」と商売人らしい表現で叫びながら、恩師の前へ駆け寄ったらしいが、その後も2回の参拝が叶ったお陰だったのだろう、寿命は1年半以上も延びる結末を迎えた。

看取16【刻み込まれし関係性】
退院したので実家へ見舞いに行くと、父は呑気にTVを観ていて、反省の色は全く伺えない。
余命宣告をされているので重病人に違いないが、本人は全く知らないので、駆られる事も無い不安。
いつも通り私は労いの言葉を頂けないが、幼少期からの習いで慣らされてしまった。

看取17【突飛なりし親心】

急に気付いたかの様に視線を向け、「この間のは使ってるか?」と父は私へ尋ねた。
病室を訪ねた際だったが、「お前にこれをやろう」と、腕から外して差し出す陳腐な時計。
「俺はまた買うから」とお古を渡すのかと呆れていだが、あれは彼なりの形見分けだったのかもしれない。

看取18【灯りしも風前】
勝手に脱走したので、元の病院で診察は受けられないのは当然だが、本人にもその気は無い。
そこで自宅での療養に切り替える為、母は知人に教えてもらい、新たに依頼する訪問医師。
流石に痛みの症状が出ていたので、渋々ながら薬を服用するも、次第に体の自由は奪われて行った。

看取19【見え隠れし予兆】
母は役所へ問い合わせ、介護認定を受けるべく準備を進めて行った。
数週間後に市の担当者が尋ねて来て、どの程度の状態かを調査する為に、名前等の簡単な内容から始まる聞き取り。
だが馬鹿にされたと感じた父は、「おちょくっとんか!」と怒鳴り出したが、勘違いも甚だしい。

看取20【手慣れし遣り口】
何とか要介護の認定を受けたので、評判が良いと親戚から薦められた女性のケアマネと契約をした。
まあとにかくお喋りな人で、機関銃の様に次々と繰り出される提案。
対象となる父との相性を心配したが、一言挨拶した後は本丸と見た母へ照準を合わせる、熟練の技を展開させる。

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