白杖62【還暦に賜りし年玉】正月の銭湯へ導いて頂いた友人はその際、南瓜に続く手料理を持参してくれる。彼の父が育てた大根は味が染みて柔らかく、豚肉の歯応えに片栗粉を加えた餡掛けの炒め物。親子の優しさが詰まったご馳走は、お節も雑煮も無い独り暮らしの虚しい心と胃の腑を温めてくれました。
看取25【狙いし起死回生】次第に借金で首が回らなくなって来たので、父が周囲の反対を押し切って挑戦したのがコンビニ経営。卸市場から格安品を仕入れ、それなりの値段を付けて売り捌く。更に手作り弁当を始めたら流行り出し、明け方に立ち寄るトラック運転手へは、内緒でビールを提供し荒稼ぎした。
看取24【歪められし純心】小学生時代に顔を合わさない父の行状を、私が詳しく知っているのには訳が有る。気の短い夫へは全く逆らえず、意地悪な姑には抑え付けられ、そんな母が捌け口に選んだのは幼い我が子。更に親類縁者の良くない噂まで吹き込まれた為、一族が集まる場所では何だか居辛くなった。
看取23【繕いし外面】父は朝は起きて来ず、昼になると家を抜け出して、帰宅は午前様。だから小学生の間、寝ている所しか知らないので、彼が動いている姿は殆ど見ていない。では夜までは何をしていたかと言うと、手土産を携えてメーカーの営業所へ入り浸り、女性社員の気を引こうと躍起になっていた。
看取22【続けし放蕩】父は単車屋を開いていたが、場当たりで大量仕入れをし、利益度外視の経営を進めてしまう。学歴に引け目を感じていた反動で、見栄を張りたいか為に支店を増やし、膨れ上がった負債は最終的に1億円。だが借金返済の面倒は母へ押し付けて、下戸なのに夜はキャバレーへ通い詰めた。
看取21【再現されし泥沼】ついに父の我儘放題の自宅療養と、母の我慢を強いられる介護の日々が始まる。当初から身勝手な行いで夫に振り回され、口煩くお節介が過ぎる姑に纏わり付かれる、楽しい思い出の無い結婚生活。一旦は病院で臨終を迎えると安堵したのも束の間、辛く長い戦いの幕は開けられた。