【#63 溶け込む私】
これまでの自分を振り返ると、はっきりとした輪郭はなく、ただ淡い色彩が幾重にも重なっているように感じます。鮮やかだった瞬間、曇りがかった日々、どこまでも透明だった時間。それらすべてが静かに混じり合い、私という存在を描き出してきたのでしょう。形を求めることはせず、ただ流れるように、時に逆らいながらも進んできた道がそこにあります。
過ぎ去った時間の中で、何かを掴もうとした記憶は、今では波紋のように広がり、消えそうになりながらも心の奥に残っています。喜びや痛み、迷いの中で生まれたものたちが、少しずつ言葉にならない何かを紡ぎ続けています。それらを整理することもなく、ただそのままにしておくだけで、今の私の中に静かに息づいている。
これまでの自分は、決して一直線ではなく、柔らかな曲線を描いてきました。ときには大きく揺れ、またときには静かにたゆたう。その揺らぎが、私を私たらしめているものだったのかもしれません。手にしては離し、また新しいものを探す。その繰り返しの中で見つけたものは、確かな答えではなく、ただ感じるという感覚だった気がします。
記憶の中にある過去の自分は、時折ぼんやりと浮かび上がり、そしてまた静かに沈んでいきます。そこにあるのは、はっきりとした輪郭ではなく、ただ「いた」という実感だけ。その曖昧さが心地よく、答えのないまま過ぎていく時間の美しさを教えてくれるのです。
これまでの自分は、何かを成し遂げるために存在していたわけではなく、ただその瞬間瞬間を生きていた。それだけで十分だったのでしょう。振り返ってみても、何も変わらない過去がただそこにある。その静けさが、今の私の支えになっているのだと感じます。
時の流れの中で、これまでの私が消えることはありません。ただ、ひそやかに混じり合い、次の私へと繋がっていく。過去の記憶が未来に影を落とすのではなく、ただ柔らかな光として、私の中にとどまり続ける。これまでの自分は、これからの私を静かに見守りながら、どこかでそっと寄り添い続けるのです。