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「物語の中のことば」思いはいのり、言葉はつばさ

生活と文化の研究誌『報徳』に連載している「物語の中のことば」。
ふだん児童文学にかかわりのない読者層の月刊誌ですが、大人が読んでも子どもが読んでも面白い児童文学を紹介し、ご自身だけでなく、お子さんやお孫さんに手渡してもらえたら……。
そんな願いを込めてお届けします。

2024(令和6)年12月号
「物語の中のことば」

 辛いときは、書きましょう。苦しいときは、歌いましょう。

『思いはいのり、言葉はつばさ』より

 中国には、女性だけが読み書きできる文字「女書(ニュウシュ)」があり、嫁ぐとき、親しい女性たちから歌を届ける風習があったそうです。この物語は十歳の少女チャオミンが、ニュウシュの美しさに魅せられ、文字を学ぶことを通じて成長していく姿が描かれます。
 冒頭の言葉は、チャオミンにニュウシュを教えてくれた憧れの先輩シューインが、望まない相手と結婚することになったとき、彼女を知る女性たちが幸せを願って手紙を送った、その中の言葉です。
「辛いときは、書きましょう。苦しいときは、歌いましょう」
 刺繍のような美しい文字で書かれ、嫁ぐ娘にこの言葉が贈られる――。「辛いとき」「苦しいとき」の言葉があるのは、それだけ女性にとって辛く苦しい時代だったからでしょう。いつまでもかわいい足でと「てん足」を強いられ、女は字を覚えなくていいと言われ、だからこそ女性だけの文字「ニュウシュ」が生まれたのかもしれません。チャオミンの母が言います。「文字があなたの足代わりだよ。思いを綴ることで、心がきっと自由になる」と。
 不自由な中でひたむきに前を向いて生きようとする女の子たちの姿は、現代を生きる大人の私に勇気と励ましを与えてくれました。現代の子どもたちの心にも、きっと届くと思います。
 
 メールやLINEでのやりとりが主流になった今、久しぶりに手紙を書きたくなりました。たとえ上手でなくても、ていねいに、心を込めて……。そう、「思いはいのり、言葉はつばさ」なのだから。
 この物語のタイトルが、力強く私の胸に迫ってきました。

小川雅子(児童文学作家)

【紹介した本】
『思いはいのり、言葉はつばさ』まはら三桃著(アリス館・2019年刊)


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