伊坂幸太郎「777」ネタバレあり感想&伏線考察/これは誰のための物語か‐小説【殺し屋シリーズ】
どうもTJです
今回は伊坂幸太郎の殺し屋シリーズ最新作「777」をネタバレありでレビューしていく
緻密に張り巡らされた伏線も振り返りながら、この物語は果たして誰のための物語なのかという核心部分も考察できるよう書いていきたい
あらすじ&作者紹介
作者は小説好きなら知らない人はいないだろう、伊坂幸太郎
2000年に『オーデュボンの祈り』でデビューしてから本屋大賞や山本周五郎賞など数々の賞を受賞する日本を代表する小説家
特に累計300万部を突破する「殺し屋」シリーズは伊坂作品でも屈指の人気を誇る
残酷かつ、不合理な現実
まず伊坂幸太郎とはどのような作家なのだろうか
個人的に定義するならば「綺麗事抜きの、残酷な世界を描く」ことのできる作家だと思う
今作でも冒頭から厳しい現実を容赦なく読者に対して叩きつけてくる
これは登場人物(殺し屋)であるマクラとモウフの会話であるが、少なからず共感できることはあるだろう
彼らは外見が優れ、人生をスイスイ楽しく生きられる(攻略できる)人たちのことをスイスイ人と呼ぶが、この一節だけでも伊坂幸太郎が現実をぼやかすことなく克明に描いていることが読み取れる
ここが個人的に伊坂幸太郎の好きなポイントだ
そこから起こった出来事を全て記憶してしまう女性・紙野を巡って容姿の良い吹き矢を使った6人組の殺し屋たちが、そして上の階では“簡単”な任務をこなすべくとてつもなく運に恵まれない主人公七尾が、そして下の階では元政治家で記者と食事をする蓬実篤が、といった具合で主に3本の線で物語は進行していく
ホテルという立体的な舞台装置を巧みに利用しながら、1本の線へと見事に収斂させていく手腕はさすが伊坂幸太郎といったところだが、この物語の根底には常にスイスイ人vs非スイスイ人たちの二項対立が存在している
一応立ち位置を整理しておくと
スイスイ人
・吹き矢6人組
・蓬実篤
非スイスイ人
・紙野
・七尾
・マクラ、モウフ
・乾
※乾は最初マクラ、モウフたちからスイスイ人扱いされていたが、実は違ったということがのちに明かされる
果たしてスイスイ人と非スイスイ人の仁義なき戦いの結末はどうなるのか
その戦いの結末のヒントが伏線として見事に隠されているので、今からはそちらをまとめていく
巧みに散りばめられた伏線
伊坂幸太郎は恐ろしいほど自然に伏線を忍ばせる
他のサイトでは大々的に伏線をメインに考察したものは無かったと思うので、今回ここでまとめていく
この15年前というのはエドが業界殺しが存在することを聞いた時期(p38)でもあり、蓬が業者殺しということの伏線
紙野がココに最近、乾の様子がおかしかったと言った場面だが、これは乾が蓬への復讐を前にして情緒が不安定になっていたことの伏線
乾は紙野を殺したくないということの伏線
乾が顔を整形して蓬に復讐を果たすことの伏線
奏田がアスカを爆殺する時の伏線(p206)
「中は開けないで」
p227「めつむれ」の伏線
乾が蓬に復讐を果たす伏線
またマクラとモウフも乾の復讐に協力している
金髪の男が乾であるという伏線
p208の金髪男を寝かせる場面も同様
最後、ウィンパスホテルで七尾に柚子胡椒のかかかったチーズケーキが出される伏線
ここは痺れた
これは誰のための物語か
最後にこれは誰のための物語だったのだろうか
私は運や才能に恵まれなかった人々、マクラとモウフたちの言葉を借りるなら悲スイスイ人たちのために紡がれた物語だと思う
紙野は記憶力が良すぎるが、あまりに様々な不幸に巻き込まれてきた
七尾やマクラ、モウフ、そして蓬によって父親を奪われた乾も理不尽な現実に打ちのめされてきた
だが、彼らは人に対しての恩を忘れなかった
だからこそ人生おいての777、つまりはジャックポットを出して、スイスイ人たちへの復讐を果たす
この持たざるものたちによる逆襲こそが今作のカタルシスを痛烈に感じさせてくれるのだ
伊坂幸太郎は不合理な現実から安易に目を背けない
向き合い、そして抗いながら、希望を描くことができる作家だ
隣の芝生は永遠に青い
昨今のSNSの発達によってそのことはより顕著になっている
だからこそ他者と比較するのではなく、自分なりに生きて、そして周りに対して恩を忘れないことが人生の777を揃える上で大切なことなのだと改めて感じさせられる
これが伊坂幸太郎の伝えたいメッセージなのだと自分なりに受け取った
ということでいかがだっただろうか
かなりの文量となってしまったが、今回はこの辺で終わりにさせて頂く
今後も気になった作品はどんどんレビューしていきたい
今後の励みになるのでフォロー、スキ、コメントの方も是非
最後にこの言葉で締めにさせてもらう
では!