青天の霹靂30(己も復讐されるべき)
そして、原っぱには花に囲まれ眠った穂波がいた。
「穂波ん」
二人は最悪な事態を覚悟した。
「起きて下さい。穂波さん、お願いですから目を開けて下さい」
「ぅ、ううん」
切羽詰まった冬眞の声に、穂波は気怠げに目を開ける。
冬眞は、ホッとする。
それでも、穂波を揺する。
そうすると、穂波は目を覚ます。
最初の内、状況が分かってないようだった。
冬眞は聞く。
「大丈夫ですか?」
「何で、目覚めるの? 私が死ななきゃ、彼の復讐は成立しないのに。もう、彼には時間も残されていないのに」
穂波は泣きじゃくる。
「どういうことだよ、それは?」
それに、日向が慌てたように聞く。
「彼は病気なんです。もう、時間がないの。お願い私を死なせて」
「絶対、イヤだ」
冬眞はきっぱり言う。
「彼って、富山さんのことですよね?」
「・・・」
「答えないとこを見ると当たりですね。なぜ今になって、復讐を結構したんですか?」
冬眞は聞く。
「それはルリカが、廉夏さんを殺したいって言ったから」
「動機は思った通りだったな、冬眞」
「ええ、でもなぜ、彼はすぐに復讐しなかったんですか?」
「正確には分かりませんが、たぶんですけど、私たちを見て、思いとどまったんだと、思います」
「どういうことだ?」
日向は首を傾げて聞く。
「父には、父性愛などまるでなかった。彼はどうやれば、自分が儲かるかしかなかった。だから、子供も育てた。自分の有利になるとこに子供を輿入れさせるために。それを目の当たりにし、富山は私たちを可哀想に思ってくれたんだと思います。だけど、ルリカは富山に絶対言っては、ならないことを言ってしまった。廉夏さんを、殺したいだなんて、彼は1番聞きたくなかった言葉だと思います。彼の復讐心を目覚めさせるには十分だった。なのに、ルリカは言ってしまったんです。私もあの男の金で教育を受けてきたんです。彼の復讐を成功させるためにも、私は死ななくては」
「それは、違います」
冬眞が言う。
「どう?」
「僕は生きて、欲しいと思うんです。富山さんも、同じだと思うんです」
「えっ?」
「たとえ、それが両親の死の理由であったとしても、僕も廉夏に生きて欲しい。僕の両親は廉夏を庇って死にました。でも、僕は廉夏に生きて欲しい」
「えっ?」
「僕の両親も廉夏によって殺された様なものです」
「そんな、嘘でしょ?」
「いいえ、それが真実。だからこそ、廉夏には逆に生きて、地獄を見て欲しい。生きてくれないと、自分が味わった地獄は見せられないでしょう」
冬眞は地獄と言うが、それはあまりにも甘い響きで、聞くものには、地獄に行きたくさせた。
「だから、富山さんも一緒だと思うんです。富山さんも、あなたには生きて、自分と一緒に地獄を歩いて欲しかったんじゃないかな」
「そんな?」
冬眞にそう言われ、穂波は泣き出す。
「泣かないで下さい、穂波さん。さぁ、我々は生きることを諦めた王子の目を覚ましに行きましょう」
「どうやって?」
「貴方が、彼に生きろと言えば、多分良いんです」
そう言われて、穂波は何かを決意するように立ち上がる。
「いいえ、私には、やるべきことが、今、分かりました。お願いです。私が行くまで、富山をお願いします」
そして、走り出した。
冬眞は会場に戻る。
冬眞は、静かに富山を前にして言った。
「彼女は平気です。僕がもう無事保護しました。今は彼女は、己のやるべきことが分かったと言って走り出しましたよ」
それを聞くと、富山はホッとする。廉夏はビックリする。
「それって、どう言うこと?」
「彼女は死ぬつもりでした。貴方の手に掛かって。目覚めたとき、己を責めていました。もしかしたら、彼女は死にたかったのかもしれない」
それに、弾かれたように富山は顔を上げる。
「どういうこと?」
「彼女は自分も復讐されるべきだと思っていました。自分が死ななければ貴方の復讐は、成立しないと頑ななまでに思っていました」
「何で?」
「己も知らぬこととは言え、そう言った人たちのおこぼれに預かったから許せないそうです。貴方の復讐は、穂波さんが死ななければ、成立しないんですか?」
「いいえ」
「それを、本人にも、言ってあげて下さい」