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あの人はおかしい
この人は嫌い
あの部屋の人はちょっといい
でも、その人はちょっと
今日は新しい職場の1日目で、人生何度目かの極度の緊張に晒されている私の近くで交わされるお喋りを聞いていた。
私のことを言われている訳じゃないのは、わかっているけど、いつもこの手の会話は勘弁してほしいし、混ざりたくない。
なんでそんなに人のことを気にする?
人を悪く言うことで、集団の中で相手のことを貶め、自分を相対的に良く見せる効果が、悪口にはありますって、先生が言っていた。そうだなあと思う。自分に目を向けたくないんだよ。それもそうかと思う。だからと言って、今できている集まりに関わらないようにすれば、きっといずれ、私がターゲットになるだろう。小学生のときトイレにみんなで行かなきゃいけなかったことの類似品かもしれない。
こちとら、自分のことで、必死なんだよ。家族を養って、その家族を守ることが何より大事なんだけど。生きていくことが、大事なんだけど。
ねえ、〇〇さんはどう思う?
リーダーらしい年配の人が、親切そうに私に微笑みかけた。いかにも、優しいよね私という体を作ろうという雰囲気が滲み出ていて、無理めな声がけがありありと伝わってきた。
来たばっかりで、何もわからないんで、、
遠慮がちに微笑んで、相手のシワがちの目元に向けて媚びを送った。社会のルールの小さな美徳がチラリと見え隠れするのを感じる。不安?
そうよねえ。でも気をつけないとダメよ、あの人は、、
彼女は私を心配そうに見下ろした。そして、不意にけたたましい笑い声をあげたかと思うと、私をニコニコしながら見た。愉快そうな顔に、安心したのか、周りの人間が笑った。私も笑った。
、、ほんと、気をつけますよ。