年末の決断
昨夜、僕が代表になって来年2月にスタートするはずだった新しい事業に関し、会合を開いた。
その席上、代表の任に就けないと判断するに至った経緯と、引継いでいただける方がいれば側面からのバックアップは惜しまないという2点につき、報告をした。
内容に関して、具体的には触れない。
要約すれば行政がからむ事業で、地元住民が主体となって地域活性化に取り組もうとしたが、話が二転三転する中で僕が代表者となる協定書には、サイン出来ない判断をしたということだ。
全てを行政のせいにするのは容易いが、相手の言動を全て善意に解釈しすぎたあまり、慎重さに欠けた自らを大いに反省している。逆に協定を結ぶ直前の段階で冷静さを取り戻し、踏みとどまれたことは不幸中の幸いと思っている。
先方の思惑がどうであれ、こちらに何かしらのメリットがあるのであれば、実行していただろう。辞退を最終的に決意したのは、行政による「ルールなき後出しNG」にある。
予算が議会を通過した10月半ば過ぎ、地元住民に向け作成したチラシを、行政側に提示した。全戸に配布し、地元として初めての試みとなる事業への周知と参加を呼び掛けるためだ。議会承認までは表立って活動が出来なかったから、満を持してフルに活動を始めようと意気込んでいた。
ところがこのチラシを撒くことは、まかりならんと言う。予算を取った主旨から、外れているというのだ。
では、どういった内容であれば許可されるのか、明確にしてもらいたい。
そう要求しても、こちらが納得できる答えは返ってこない。自分たちが議会に上げて獲得した予算の名分に沿っていなければ困る、ただそれを繰り返すだけである。
その予算にしても、新たに組織されるはずの任意団体の通帳に、一括で振り込まれるとだけ聞いていた。
正直言って活動するには大変厳しい条件だが、なぜか一点のみ潤沢な施設の改修費を大幅に削り、当初の運転資金に回せばしのげるだろうとの皮算用だった。
ところがそうした流用も、してはならないという。各予算の内訳の誤差が認められるのは、せいぜい数万円が許容範囲というのだ。
何かをしようとすれば、後出しの理由によって活動が阻害される。こうした役所の対応が幾度となく重なり、感情論としてでなく、僕の現在の経済力や能力では実行不可能と、判断せざるを得なくなったわけだ。
昨夜は関係者にこれを謝罪し、引継ぎなり代案なりがあれば承りたいと投げかけた。
僕自身にとっても、2年近くこれ一本に賭けてきた事業ではある。他の案件は全て後回しにして、事業の成立を最優先に取り組んできた。
せっかく予算が通り、ひと筋の、たとえそれがか細い光であろうと将来を照らす道標が示された段階まで、辿り着いたわけだ。今ここで降りるのが妥当であるか、ここしばらく悩んだ。
それも生来の性格なのか、「やっぱ無理!」といったん判断してしまうと、もやもやした気分は一気に解消した。
今年もあと3週間で終わる。来年に向け出来る準備はした上で、次の目標に向かおうとすでに気持ちは切り替わった。
20数名が参加する席上、今回の事業にメリットがないと数名の方より発言がある。
そもそも我々の当初の主旨から逸脱しているし、活動費が全くないのであれば(予算の流用が出来ないのであれば)、現実的に回せないじゃないか。非営利の事業なのに、前提からしておかしい。
月1回のマルシェ、年に1回のフェスと、様々な出店者とのつながりがすでに生まれている。行政などあてにせず、今あるルートから今後の広がりを探った方が、健全ではないか。
大方の見解は、市と協定を結ばず、事業は辞退すべきというものだった。僕からすれば、至極真っ当な判断である。
一方で、形を変えたり改めて交渉するなりを検討し、今の段階で結論を出すのは早計であるとの意見もあった。
こちらの主旨から外れようとも、せっかく予算が取れて始められる条件が整っているのに、ここで断れば未来の可能性まで一切絶たれるというものだ。
メンバーのお一人は、せっかく取って”もらった”予算を安易に断るのはいかがなものかといった、いかがなものかな意見もあった。そういえば役所のことを「お上」って自分より上に置く表現、昔からあるよな。
結局タイムリミットになっても結論に至らず、僕が代表を降りることに限れば、これといった意見も非難もおこらなかった。
まとめに入りプロジェクト代表が、改めて担当部署のトップと話し合いを持つと宣言し、会議を締めた。
古参の方々は10数年もこの課題に取り組んでこられたわけで、すぐに諦めようという気持ちになれないのはよく分かる。
ケジメとしてその際には、僕も同行し先方に挨拶するつもりだ。どういう反応が返ってくるかわからないが、よほどの条件変更を相手がのまない限りは、たぶん決意は揺るがないだろう。
昨夜の会議で継続を望む人たちの意見を聞きながら、頭に浮かんできたのは「サンクコスト」という単語だった。(次回に続く)
イラスト Atelier hanami@はなのす