もしジチ(もしも自治会を事業化したら)
11月17日・日曜日の午前、地元企業も参加した滝掃除を行い、午後1時から恒例の井戸端会議を開催した。
庵原(旧庵原郡)という、我が地区を含めた集合体の方は行政との折衝で相当な隔たりがあることを知り、正直やる気が失せている。
請ける側にとってはリスクしかなく、将来につながるヴィジョンが見出せないためだ。
そうは言っても先方は予算を取ってしまっているから、こちらが協定を結ばなければ担当者の面目は丸潰れだろう。しばらくは無益な攻防が続くかもしれないが、ただでさえ苦しい地方行政の予算を、やっても無駄としか思えない事業に注ぎ込むべきではない。よほどの方針転換でもない限り、このまま身を引こうと思っている。
ここ2年近くは事業実現のため自分なりに動いてきたが、引くべき時を見誤るべきではない。
では翻って、我が地区単独でできる事はないだろうか。
地域の活性化がテーマであれば、規模の大小は関係ない。出来るところから始めればいいだけだし、現に滝掃除を始めてみたら、地元企業や新たな行政機関との窓口が生まれた。
こちらの担当窓口は僕が相手をしている課と違い、自ら企画提案してくる能力も意欲もある。役人って本来、こうあって欲しいよなぁ。
今回の井戸端会議では、Wi-Fiが繋がるようになった自治会館の有効活用について、まず話し合った。
上下の関係なく、思いつくまま気兼ねなく意見を出し合えるのが、井戸端会議の利点だ。
参加者の一人から、年賀状印刷を自治会として請け負ってはどうかという案が出る。僕なんかはとうに止めてしまった風習も、田舎では律儀に続けているお年寄りが多い。
ところが以前と違い、年賀状印刷の取次店は極めて限られている。ハガキ自体も値上がりしたばかりだし、年金暮らしの独居世帯にとってはばかにならない手間と出費になる。
ハガキ代はどうにもならないが、若干の手数料のみで自治会が請け負い、一人ひとり希望に沿ったデザインを作成することは、例えば僕であっても対応可能だ。広報の紙面構成を担当している女性であればなおさらのこと、朝飯前の作業になる。
些少であっても有料にすれば、希望者は遠慮せずに頼むことができるだろうし、自治会館でネットからのデータを拾いながら作成することも可能だ。無料の作成ソフトがあるし、AIで画像生成だってできる。
こうした機会を一つのきっかけに、地元住民に役立つ企画がいろいろと発案されるようになれば面白い。
たとえばご近所に、旦那さんに先だたたれた独り住まいのおかあさんがいる。
買い物に行きたくても、何しろバスも日に数本と限られている田舎だから、タクシーを使って街まで出るらしい。
そうなるとおそらく、片道2,000円では済まないだろう。帰りは時間調整して、バスの時間まで粘って帰宅するそうだ。
最寄りのバス停に着いても、弱った足腰にしんどい坂道を登らねばならず、難儀しているはずだ。
亡くなったご亭主の年金が入らなくなったお年寄りからすれば、結構な負担になる。実際、お友達には大変とこぼしているらしい。
これだって、定年退職したばかりの元気な世代を、うまく活用できないものかと思う。
白タク行為はもちろん御法度だが、自治会が間に入り、たとえば会員制などにして毎週何曜日の何時に送迎すると取り決め、一度に数名を買い物に連れ出すのはどうだろう。重い荷物を持つ負担も無くなるし、自分で買い物する楽しみも保証されるんじゃないか。
送迎する側にとってもちょっとした小遣い稼ぎになり、地元の人に喜ばれるのだから、誰にとっても悪くない話だ。
あくまで思いつきであり、どういう法的な問題をクリアしなければならないか、現時点ではわからない。近々、社会福祉協議会にでも聞いてみようかと思っている。
個々人が孤立したままにいるのではなく、何かをきっかけに緩やかな共同体が復活していけば、その地区はきっと活気づく。
自治会役員といった従来の「罰ゲーム」では決してなく、やりたい人がやれることで参加すればいいだけだから、無理なく続けられるのもメリットだ。
たとえわずかであっても、地区の中でお金が回り出せば、人間必ず欲が出る。こうすればもっと儲かるんじゃないかの発想が生まれてくれば、しめたもんである。
極端に言えば対価は金じゃなく、おじいちゃんが育てた農作物やおばあちゃんが拵た漬物との、物々交換だって良いのだ。
互いが納得し合える取り決めがあれば、それでいい。
自治会が地元で希望する様々な仕事の取次店になるなんて、発想として面白いじゃないか。互いが互いを補い合えれば、地区独自の文化が形成されるかもしれない。
それは望ましい資本主義の形というか、もしかすると「正しい」共産主義になるかもしれないぞ。人的資源が枯渇しないうち、出来るところから試みてみよう。
少しずつでも形にしていければ、楽しい余生が送れそうだ。まずは今回、年賀状印刷代行を仕掛けてみるつもりだ。
イラスト Atelier hanami@はなのす