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天才と凡人を分けるもの

史上最高の物理学者の1人・リチャード・ファインマン(1918年~1988年)のキャリアは、原子爆弾開発プロジェクトマンハッタン計画への参加に始まる。
当初は断ったものの、ヒトラーが原子爆弾を先に開発する恐れがあると思い直し、結局この計画にたずさわることになった。

その反動から、戦後の一時期は研究意欲を失ってしまう。その間にもいろいろな研究所や大学からのオファーが来るのにストレスを感じていたが、あるとき「自分は遊びながら物理をやっていこう」と決心する。

幼少期より、自分が正しいと思ったことは実証せずに気が済まない性格だった。

まだMIT(マサチューセッツ工科大学)の学生だったころ、「小便は重力によって体から自然に出てゆくのかどうか」ということを真剣に悩む。
あるとき大学の友人とこの議論から喧々囂々けんけんごうごうとなり、最終的にファインマン自身が逆立ちして小便できるところを見せ、そうでないことを実証したという。

ロスアラモス国立研究所に所属中は、母親譲りのユーモアで様々なイタズラをしたと、本人が著書の中で語っている。

  • 研究所で行われた機密保持目的の検閲けんえつに対して不満を抱き、妻や両親との手紙でのやり取りをパズルにして検閲官をからかった。

  • 内容よりもその機密性にばかり気を使う上司が気に入らず、ある日、重要機密書類の入ったキャビネットを趣味の金庫開けの技術で破ってみせた。

  • 上司がキャビネットを新しいものに変えてもすぐさま金庫破りを繰り返し、機密への固執こしつに対する無意味さを逆手さかてに取ってからかったりもした。

ノーベル賞受賞の知らせの電話が朝の3時半にかかってきた事に腹を立て、「いま眠いんだ」とだけ言い放ち、すぐに電話を切ってしまった。
その直後から次々と電話がかかってくるのにうんざりし、ノーベル賞を受けなければこんな目にわずに済むのかと考えて受賞を断ろうと考えたが、断った方が余計ことが大きくなると『Time』誌の記者にさとされて、しぶしぶ受け取ることにしたという。

物理学会で初来日する際は、片言ながらも日本語を覚えてきている。せっかく日本に来たのだから、ホテルではなく旅館に泊まりたいと主催者に無理を言い、宿を変更してもらった。
別の機会に来日した際も、予約された三重県の海辺のリゾートホテルをキャンセルし、山側にある町(名松線伊勢奥津駅付近)の小さな宿屋に、わざわざ変えてもらったりもしている。

生涯に渡り、友人のラルフ・レイトンとボンゴを演奏していた。即興演奏から新たなリズムを生みだそうというものだったが、この活動が高じて演劇やバレエのリサイタルのために、劇場で演奏することもあったそうだ。
残された短い映像を見るだけでも、ボンゴ奏者として充分メシが食えただろうと思わせるバカテクである。
実際、彼が音楽を担当した創作ダンスは、パリで行われたバレエの国際コンテストで2等を獲得している。

兵役へいえきく際に行われた精神鑑定では、「精神異常」のため不採用になった。これは彼が元々精神科医というものを嫌い、鑑定医の質問にいたずら心を持って応対したためだ。ところが後日、そのいたずらを懺悔ざんげする書面を提出したところ、今度は「健康不良」のため、あらためて不採用となった。

可愛い女性に目がなく、その心理を色々と研究してどのようにすれば異性にモテるかをよく知っていたし、実際によくモテたという。
カリフォルニア工科大学で教鞭きょうべんっているときは、ほとんど毎日のように自宅近くのストリップバーに通っていて、ダンスを眺めたりダンサーの気を引いたりしていた。

事程左様ことほどさように、一芸に秀でる者は多芸に通ず。ファインマンの残した言葉は、詩のように美しい。

前にはあんなに物理をやるのが楽しかったというのに、今はいささか食傷気味だ。なぜ昔は楽しめたのだろう? そうだ、以前の僕は物理で遊んでいたんだっけ。いつだってやりたいと思ったことをやったまでで、それが核物理の発展のために重要であろうがなかろうが、そんなことは知ったことではなかった。ただ僕が面白く遊べるかどうかだけが、決め手だったんだ。

知識が増えれば、もっと深く不思議な謎が姿を現し、ますますのめり込む。期待はずれの答えかもしれないなどと心配するな。楽しむ心と自信を持って新しい石を一つずつひっくり返していけば、そのたび想像もしなかったような奇妙なものが見つかり、もっと素晴らしい疑問が出てくる。間違いなく壮大な冒険だ。

僕は疑いや不確かさを持ったまま、そして答えを知らないまま生きられるんだ。まちがってるかもしれない答えを持つより、答えを知らないで生きるほうがよっぽどおもしろいよ。

なぜデカルトは虹を研究したと思う? 虹を美しいと思ったからだよ。

ファインマンを形容するとき、「超天才」と呼んでも大げさでない。
超天才と凡人は、遺伝によって差が分かれている説というがある。
凡人がテーマだから、次回はこのことを記事にしようと思ったが、せっかくなので先に「ファインマンテクニック」に触れようと思う。何かを学習する際とても参考になるし、ファインマン自身がこのように語っているからだ。

高校生レベルの知識層に説明して伝えることができなければ、その人は科学を理解しているとは言えない。
(次回に続く)

イラスト Atelier hanami@はなのす


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