見出し画像

記憶のもつれ

認知心理学では 「ものを記憶していられる時間の長さ」によって記憶の種類を分類している。記憶の順番と記憶を保持できる時間は、以下の通りだ。

〇 入ってきた情報を感覚記憶として保管する
〇 情報が海馬(脳の記憶や学習、判断といった機能に深く関与する部位)のワーキングメモリに運ばれて、短期記憶としてとどまる
〇 情報を何度もくり返し復唱するリハーサルを行うことで中期記憶として1時間から最長で1か月間くらいとどまる
〇 特に重要な記憶は長期記憶として記憶する

長期記憶は、言葉によって記憶する「宣言的記憶」と、技能や一連の手続きなどのように動作で記憶する「手続き記憶」の2つに大別される。
さらにカナダの心理学者エンデル・タルヴィング氏は、「宣言的記憶」の中にも「意味記憶」と「エピソード記憶」と呼ばれる性質の異なった2種類の記憶が含まれていると、提唱している。

みんなのミシママガジン 第15回 記憶の仕組みを理解する(2) 本田美和子

「意味記憶」とは、特定の場所や時間とは関係なく、物事の意味を表す一般的な知識や情報についての記憶になる。
たとえば
「1年は12か月である」といった知識や情報の記憶
「地球は1年で太陽のまわりを一周する」といった情報の記憶
「カエルの子はオタマジャクシである」のように科学的に証明された知見
辞書に書かれているような言葉の意味
教科書に書かれているような知識

意味記憶とは、いわば脳内の「百科事典」的な役割を担っているのだ。

エピソード記憶とは、個人が経験した出来事に関する記憶で、その出来事の内容やそのときの時間や空間、身体的・心理的状態などの付随情報も記憶されている。
エピソード記憶は長期記憶の一種で、意味記憶(本を読んだりして得た知識)と似た性質の記憶だが、意味記憶がよく知られている知識や事実についての記憶であるのに対し、エピソード記憶は特別な出来事や個人的なエピソードについての記憶になる。

エピソード記憶は、特に覚えようという意識しなくても自然に覚えることができ、意味記憶に比べて忘れにくく、脳の中により長く残りやすいという特徴がある。
たとえば昨日の夕食について、「自宅で家族とカレーライスを食べた」という事実、つまり、どこで誰と何を食べたかの記憶であり、いわば頭の中の記された「日記」のようなものだ。

「意味記憶」と「エピソード記憶」は、共に言葉による記憶だ。
イメージや言語として意識的に想起でき、その内容を言葉で述べることができる記憶であり、「宣言的記憶」として分類されている。

同じく潜在記憶の中でも、体で覚える記憶が「手続き記憶」である。
車の運転や楽器の弾き方、歯の磨き方などに関する「技能学習」のほか、「プライミング効果」、「古典的条件づけ」などがある。

「プライミング効果」とは、先行する刺激(プライマー)によって、後続の刺激(ターゲット)の処理が影響を受ける現象を指す。
無意識のうちに判断や行動が左右される効果で、マーケティングや広告などでもよく活用されている。

プライミング効果の例としては、以下のようなものがある。
〇 バイクの話をしていた後に「そういえばこの間のレースすごかったよね!」と話をふると、相手は車でもボートでもなく、バイクのレースを連想する。
〇 人気料理研究家がうまそうなラーメンをつくる番組を視聴して、そのシーンが強く印象に残っている。すると翌日のランチ時、あえて意識することもなくラーメンを選んでしまう。
〇 オンラインショッピングサイトで高評価のレビューを読むと、その商品に対する信頼感が高まり、購入する可能性が増す。

プライミング効果によって、商品をさりげなく印象付けることが可能だ。 潜在顧客に影響を与え、商品購入のキッカケにつなげることができる。
そのため、ビジネスにおいてプライミング効果はよく使われている。 消費者側は無意識のうちに、その影響を受けているわけだ。

もう一つの「手続き記憶」である「古典的条件づけ」とは、生理的な反応を引き起こす刺激(無条件刺激)と別の刺激(中性刺激)を繰り返して提示することで、中性刺激だけで同じ反応を引き起こすようになる学習手法だ。
「パブロフ型条件づけ」とも呼ばれる。

「パブロフの犬」という有名な実験がある。
犬はエサを目の前にすると、生まれつき起こる反応として唾液だえきを出す。
そこで、犬にベルの音を聞かせてからエサを与える。本来であれば、犬にベルの音を聞かせても特別な反応は起こらない。しかし、ベルを鳴らしてエサを与えることを繰り返していると、犬はベルの音を聞いただけで唾液だえきを出すようになる。これは「条件反応」と言われる現象だ。

条件反応とは、学習させた刺激が引き金(条件刺激)となってさまざまな反応が起こることで、これを学習心理学では「古典的条件づけ」と呼んでいる。
梅干しやレモンを見ただけでつばが出る、お昼のチャイムが鳴るとおなかが空くなど、日常生活にも多く見られる。

たとえば、覚醒かくせい作用があるカフェインもそのひとつになる。
普段コーヒーを愛飲あいいんしている人にカフェインレスのコーヒーを飲んでパソコンゲームをしてもらうと、カフェインを摂取せっしゅしていないのにも関わらず、水を飲んだ場合よりもゲームの効率がアップした。カフェインの覚醒かくせい作用が現れたのだ。

反対に、アルコールを日常的に飲む人にノンアルコールビールを飲んでゲームをしてもらうと、酩酊めいていしたかのように間違いが多くなる。
これら誤反応ごはんのうは、コーヒーやビールに近い匂いや色、味などが引き金となって、条件反応が起こるためだ。

このように、「古典的条件づけ」を応用したものはたくさんある。今では当たり前になりすぎて、気づかないだけなのだ。
心理学の目線で周りに潜むいろいろな引き金トリガーを探せば、その背景にある意図も見えてくるはずだ。
(次回に続く)

Atelier hanami@はなのす

いいなと思ったら応援しよう!