おごれるものは久しからずや
日本新聞協会が2023年に公表したデータによれば、一般紙の総発行部数が3,000万部を大きく割り込み、2,800万部台まで落ち込んでいる。
5年間で失われた部数は1,000万部だから、毎年200万部ずつ減っている計算になる。単純計算でいくと15年後には、紙の新聞は日本から消えているわけだ。
急速な新聞離れについても、全国紙の新聞社員は「想像通りの結果で、数年前から分かっていたことだ」と認めている。
新聞記者出身のネットメディア編集者は、「紙の新聞を読んでいるのは主に高齢者。新聞の衰退は止まらないだろう」と指摘している。
彼らによれば、「新聞を読むことが習慣化している人が一定数いるのでゼロにはならないだろうが、一般紙全体で100〜500万部ぐらいまで減っているのではないか」という予測を示す。
この見立ては、少し甘い気がする。「新聞を読むことが習慣化している人」が各年代に分散しているなら当たっているだろうが、実体は圧倒的に高齢者に偏っていて、若い世代では皆無に近い。
主要メディアの年齢階層別平均行為者(利用者)率を示したものによれば、たとえば平日のテレビをリアルタイムで視ている10代の値は50.7%と、まだまだ高い。
利用者率そのものはインターネットが一番高く、テレビがそれを追い、新聞が続く形となる。
テレビのリアルタイム視聴では、高齢層ほど行為者率が高く、録画も同じ動きになっている。
インターネットは20代がピークだが、50代までは8割超を維持している。
一方で、新聞やラジオの年齢階層間格差はきわめて大きい。新聞利用者率は10代で2.1%、20代でも2.8%にとどまっており、60代ですら46.1%と半数に達していない。このデータにはないが、70代、80代と年齢が上がるほどに、テレビの視聴率と新聞の購読率は上がっているのではないか。
僕の場合、50代後半からテレビは視ておらず、同時期に新聞もやめてしまった。出先で食事するときなど、備え付けのテレビから昼のワイドショーが流れてくるが、嘘か無意味のいずれかとしか思われず、それにやたら騒々しいからうんざりしてしまう。
「バカな視聴者がよろこぶから続けている」というのがテレビ局側の本音と仄聞するが、「視聴者をバカにしてしまう装置」と言った方が正しいかもしれない。
新聞も同様に「嘘」にまみれていて、読む気になれない。
ネットの場合は玉石混交、記事や書き手次第で全く視点が違うし、ためになるものもあれば、単なる誹謗中傷的なものだって数多くある。
ただしネットの世界は、テレビや新聞から提供される一方的な「情報」でなく、いろいろ見聞きした上で自分で考えることが出来るのが特徴だ。
僕も含め、ネットの普及から「目覚めた」高齢者が増えているのは間違いなく、このところの大きな選挙では、SNSの影響力が大手メディアをしのぐまでになってきた。来年の参議院選では、両者の力関係が逆転したことを顕著に示す結果となるだろう。
ネットの普及に伴って紙の新聞は高齢者のメディアになり、若い世代の新聞離れを食い止められないまま、どんどん宅配読者を失っている。
この勢いが加速したのは、スマホの普及が進んだ2010年代からだろう。
高速通信によって画像が簡単に開けるようになり、「Yahoo!」や「Google」などのニュースサイトや、Xを始めとするSNSから情報を得る人が急増したためだ。
電波が4G、5Gと高速化して動画もストレスなく見られるようになった今、テレビでも同様のことが起こり始めている。
視聴者はYouTubeやさまざまな動画サイトでコンテンツを見るようになり、一昨年のFIFAワールドカップでは、無料でネット中継したABEMAの視聴者数が1,000万人を超えた。
情報のプラットフォームは、もはやインターネットになったと言っても過言でない。
放送局では、ティーバーやHulu、radikoなどに活路を見出そうとしている。
新聞社でも独自のニュースサイトを充実させ、月額契約の有料配信を新たな収益源にしようとする。しかし今のところ、紙の収益には遠く及びまないのが実情だ。
大きな要因の一つに、ネットのニュースはタダ(無料)であると、無意識に捉えている人が少なくないことが挙げられる。僕にしても、ネットでニュースを検索して「この記事は有料です」と出れば読もうとは思わない。
情報は決してタダではないということを、認識しながらもだ。
ネット上で流れているニュースの多くは、新聞などの報道機関が取材したものだ。
全国紙は国内の県庁所在地や政令市、さらに海外の主要都市にも支局や特派員などを配置し、年間数十億円規模の費用をかけて日々取材を続けている。ネット専業のニュースサイトで、そういう体制を取っているところはない。
新聞がなくなれば、ネット記事も消滅してしまうことになるわけだ。
そういうネットも、ある側面では大手メディア以上に、運営母体の思惑から情報統制が行われている。いわゆるオールドメディアが衰退していけば、明るい未来が待っているという保証はどこにもない。
最近でも、Facebookのザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が米下院司法委員会に宛てた書簡で、新型コロナウイルス関連のコンテンツを検閲するようバイデン政権から圧力をかけられたと主張している。
アメリカで行われていたこうした情報操作が、「アメリカのポチ」と揶揄される日本で行われていないと信じる人が、どれほどいるだろうか。
テレビキー局や大手新聞社が、政府の情報統制に大きく加担してきたことが間違いないのであれば、やはり一度は終わってもらうしかない気がする。新聞販売店さんには、大変申し訳ないのだが。
SNSにならかろうじてある自浄能力が、いまだ驕り高ぶる彼らには、まったくないと思われるからだ。
イラスト Atelier hanami@はなのす