見出し画像

音ゲーマーと見る「腱鞘炎」

はじめに

こんにちは。

上達方法に関する記事は上手い方々が沢山アウトプットしてくださっているので、私の視点からは音ゲーと少しでも長くかかわり続けるために必要な身体面の情報発信を解剖学・運動学の概念に基づいて行いたいと考え本稿を立ち上げました。今後も不定期で更新していく予定です。(ほんとか?)

まず第一回は「腱鞘炎」について。身体の構造を知れば知るほど自分にとって負荷のかからないフォームが何であるかを理解し実践しやすくなるため、今後発信の機会があれば個別の筋肉や関節をピックアップし機能やケア方法について紹介できればと考えております。


音ゲーをやっていれば一度は目にするワード、腱鞘炎。

これが原因で自分や身の回りのプレーヤーが休止or引退してしまう、なんて経験をした方は一定数いるのではないでしょうか。

今回は、医療従事者の目線で腱鞘炎の大まかな解説と、音ゲーを取り組む際に気を付けるべきポイントを簡単にまとめたいと思います。

本稿のターゲットは以下の通りです。
・音ゲーが上手くなりたくてこれからも頻度を上げていきたい方
・音ゲーを趣味として長く続けていきたい方
・腱鞘炎等の怪我の話を聞いて不安を感じた方

腱鞘炎(ドケルバン病)って何?

画像引用:日本整形外科学会

手関節(手首)に対して生じる腱鞘炎のことをドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)といいます。それに対し指に生じる腱鞘炎はばね指(弾発指)といいいます。今回は前者のドケルバン病についての解説となります。

概要

手関節の母指(親指)側にある腱鞘(上図③)と呼ばれる区画とそこを通過する腱(上図①②)に炎症が起こった状態で、腱鞘の部分で腱の動きがスムーズでなくなります。

①短母指伸筋腱:主に母指を伸ばす働きをする腱
②長母指外転筋腱:主に母指を広げる働きをする腱
③腱鞘:①と②の腱が通るトンネル

画像引用:フィットネスのすすめ「長母指伸筋」


症状

・手首の母指側の痛みと腫れ
・母指を広げたり、動かしたりすると腱鞘③に強い疼痛

原因

一般的には妊娠出産期の女性や更年期の女性に多いとされています。
→音ゲーマーのイメージが非常に強かったためこれに関しては調べるまで私も意外でした。月経・閉経等のホルモンバランスが関与しているとの説が一般的だそうですが、私個人としては家事や子供を抱える際の肢位などで掌屈(手首を前方に倒した状態)を取る機会が多いことによる誘発もあるのではないかと考えています。

また、手の使い過ぎやスポーツ、PC等で指をよく使う仕事をされる方にも多いとされています。
→こっちが本来のイメージに近いかも?

病態

画像引用:日本整形外科学会


母指の使い過ぎによる負荷のため、腱鞘が肥厚したり腱の表面が傷んだりして、さらにそれが刺激し悪循環が生じると考えられています。
特に腱鞘内には上記の2種類の腱を分けて通過させる隔壁が存在し、これがあるためにトンネルが狭窄しやすく、摩擦→さらなる肥厚 といった経過を辿りやすいです。
→手や指を動かすために前腕の筋肉が活動し、手首(腱鞘)を通過しているためこの場合に掌屈姿勢を取っているとトンネル部分の狭窄を助長させてしまうことになります。自分で実際に少し動かしてみると手首周囲の窮屈さを感じるのではないでしょうか。掌屈位での手作業(打鍵)はダメ!

診断

画像引用:日本整形外科学会

なんと、セルフチェックが可能です!(フィンケルシュタインテスト)

母指を中に入れた状態で手を握り、手関節の尺屈(小指側に倒す)を行うと手関節の橈側(親指側)に疼痛が生じます。

連コ後の小休止や待ち時間にでも。痛みを感じたら切り上げたり難易度を下げて無理のない範囲でプレイしたりフォームを見直したりしてみて下さい。疼痛が出ている状態で継続してしまうと状態が進行し腱鞘炎となってしまいます。

治療

①保存療法
多くの方は手首を使わないで安静にすることをおすすめされます。
・手首を安静にする
・サポーターを着用する
・薬で炎症を和らげる
・リハビリ(周囲の筋の徒手治療、ストレッチ等)をする

②注射
ステロイドを用いて患部の炎症を抑えます。保存療法で改善がみられなかった場合にすすめられる場合がほとんどです。某プロも試合前に腱鞘炎になりかけて注射してもらったとか

③手術
上記でも改善が見込めず長期化した際に適応される場合があります。音ゲーで手術適応にまでなるケースは稀なのではないでしょうか。(基本的には安静指示でそのままフェードアウトしちゃう?)
腫れあがった腱鞘を切り開き一部を切除し再び繋げることで炎症前の構造に近づけます。(腱鞘切開術)

上記を踏まえた音ゲーでの注意点

・手首を前方に倒した状態では腱鞘部分のスペースを十分に保てず、その状態で手を使用し続けることで前腕から手にまたがっている腱が圧迫状態のまま筋活動を行ってしまいます。この摩擦が腱や腱鞘を肥厚(炎症)させてしまい悪循環となり腱鞘炎に至ります。
→つまり、音ゲーのフォームにおいて手首を前に倒した状態は非常に危険であると言えます。

・また、手首皿を利用する際に手首を常に皿に付けてしまっていると本来は手から前腕、そして肩へと受け流されるはずの動作に対しての反動が接触部(手首)に集中してしまい、これも腱鞘炎のリスクとなります。

・どのフォームが最適かは体格や立ち位置・運指等で違ってくるため一概には答えられませんが、解剖運動学の観点から骨格や筋に対して良くないフォームであるかどうかは判断することができます。特定の部位に力が集中してしまうと炎症が生じ腱鞘炎や筋膜(ボディスーツのように全身を覆っている)を介して周囲の筋活動制限を誘発してしまうため、ボタンを押した後のボタンから指に向かって伝わる身体への入力信号は末端で終わらせずに指から手へ、手から前腕へ、前腕から上腕へ、そして上腕から肩へと上肢全体で分散できるようなフォームを意識することが負傷予防・パフォーマンスの維持に大切だと考えます。特定の箇所(筋肉)に違和感があるようでしたら負担が一極集中してしまっている証拠なのでフォームを見直してみてください。

ストレッチ

筋腱への負担=打鍵量×フォームの良し悪し
だとした場合、フォームが悪いと数曲で違和感が出始めるのではないでしょうか。また、打鍵量そのものが多くなれば多少なりの負担が出始めることでしょう。小休止や待ちの間にセルフチェックついでに行える手首に対してのストレッチの一例を紹介します。原理としては多用している動作とは真逆の方向に伸ばす、でOKです。

手首のストレッチ
①机など、どこかに手を置きます
②反対の手で人差し指から小指を掴んで10秒間反らせます

おわりに

今回の解説は以上になります。腱鞘炎は発症すると長期間の通院や休止が伴うため厄介ですが、腕の痛みを早期から対応することで未然に防げる場合がほとんどです。本稿が趣味としての音ゲーを継続するための一助になれば幸いです。万が一発症してしまった場合は実際の整形外科によって推奨している治療法が僅かに違う場合があるので主訴やニードを話し合えると双方の理解が得られた状態でスムーズに進められるのではないでしょうか。

それでは皆様良き音ゲーライフを!!!

いいなと思ったら応援しよう!