嫌いな言葉を繰り返して聴く
「今まで、あたしの人生にはあなたが役に立たなかったんだ。」
午前二時三分。額に触るとき、汗は指で残る。なぜこの夢を見続けるのかなあ。ベッドに寝転び続けられない、ここでも思い出は私の心を悩ましているから。いつすべての終わりが来るか? なぜ今にも君の声がまだ頭に取り付いている? なぜまだ君のことを忘れられない? こんな弱いでいるのが嫌い。
まだ君の嫌いな言葉を繰り返して聞いている。どこでも、何をしていても、誰とでも、いつでも。私、僕ら二人が住んでいる町を歩いて、一緒に通した角を通すと、君のことを覚えられてしまう。不快な気持ちだなあ。僕らが分け合った愛は、今、全然存在しなかった気がする。または、君の愛ということだ。人を愛しているなら、どうやってこんな冷たくなれるか? 人を愛しているなら、どうやってあの人のことがわからない他人を信頼できるか? 回答は一つだけ。あの人を愛し足りない。
ふーん、眠いけど、もう眠れない。お茶を入れよう。
「もう君をいらない。」
午前十一時一分。療法士は事務室のドアを開けて、あたしの名前を呼ぶ。あっさり立ち、礼をして事務室に入る。座った後、彼女も座る、目の前で。
「では、今週はどうでしたか。」
無意識に、気が付かずに、泣き出してしまう。いつ涙が出るのが終わるかなあ。
「君は私によくない。お前のせいで、自分で好きにやってる時間がなくなった!」
午後四時二十二分。この狭いコンビニの中ではラジオで放送されている曲は小さい音で聞こえる。それは椎名林檎の「丸ノ内サディスティック」だから、ちょっと残念だなあ。万感が頭で混んでいる。考えすぎることを辞めたい、一秒間さえでもいい。聞こえる歌に集中したほうがいいと自分に折れ返るけど、出来ない。この声は呪いのように放っておくことがない。決まって頭を浮かんで、思いを汚してしまう。なぜその思いを取り除かないのか? あたし、自分に一番優しくするはずだけど、そうやり続けて結局誰よりも自分が一番嫌いになった。
「あのうお姉さん、すみませんが少し動いていただけませんか。」という言葉をぼんやり聞く。振り向いて、一人の女が後ろに立っている気が付く。すぐ飲み物のアイルに向かって歩き始める。
「おっ、本当に申し訳ありません。申し訳ありませんでした。」と謝る。恥ずかしくて逃げたい。
どのぐらいそのままで立ち止まっていた?
速く家に帰りたい。
「これからはあなたのことに何も知りたくない。生きても、死んでも、かまわない。あなたはもういらない。」
午後十時四十四分。ザ・キュアーの「Siamese Twins」がレコードプレーヤーから再生されている。何度もこのレコードを繰り返して聴いた。何度プレーしてもディスクの表面が消費されないのに驚いている。両親にここに引っ越したときのお祝いプレゼントとしてもらった。大変感謝している、彼らに。
目を少しだけで閉じても、君の顔を思い出して、腹が体の中で捻転する。
この曲の苦しみと苦渋は心でなんとか共鳴する。ギターの音は切ないように聞こえるから、何も感じなくなるまで体の内で流れさせている。
天井と壁はだんだん近くようにに見えて、周りのすべてが廻りだして、バラバラになる。
世界がなくなりそう。
目が覚めないなら、大丈夫。死なせてくれ。
火の中で笑っている。
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