【忘れられないお客様①】
お盆がくると毎年思い出すお客様がいらっしゃいます。
以前の職場でのお話ですが、
ど平日の暑い日、オープン間も無くに入った一本の電話から始まりました。
『ティラミスを7個、下さい。これから行きます。』
埼玉県越谷から、福島県白河市まで車を飛ばして来てくださった男性のお客様。
30代くらいの方で、
3時間半ほどかけてお店に買いに来てくださいました。
この方のご親戚の方なのか、あるいは身内なのかは分からなかったのですが。
男性
『大切な人にこれを頼まれて買いに来ました。
彼女は、何年か前に白河市に旅行に友人と来て、これを食べに来たんだそうです。それがどうしてももう一度食べたいと頼まれて来ました。
彼女は、末期の癌で今は病院にいます。
これを食べて元気になるかもしれないというような状況ではなくて。。。。
どうしても、逝く前に食べたいと言いました。なのでこれからすぐに届けに帰ります!スプーンも発泡スチロールもありがとうございます!』
と言って、泣きそうになりながら男性を見送ったのが七月の下旬のころ。
間に合うといいね。スタッフの間ではそんな話を。
....その翌月のお盆に入ったお電話。
『ティラミスを9つと、バナナケーキを3つ下さい』
言われた瞬間に、
あの時のお客様かなとよぎりました。
来店されたらやっぱりそうで。
『あの時はありがとうございました。
ご飯なんて全然食べれなかったのに、
買って帰ったら2つも食べました!
美味しいって、あの時の旅行、とっても楽しかったって言ってました。
美味しいでしょうって
家族みんなに自慢してました!
旅立ったのはその2日後でした。
今日は新盆だから、
みんなで彼女を偲んでティラミスをいただきます。小さい子はバナナケーキですけど。。。
あの時、間に合って本当に良かったです。
ありがとうございました。』
パティシエのお仕事は、お祝いごとや記念のイベントのイメージがどうしても強いけれど、
あぁ、私はこの方のために用意できたことが、
心の底から嬉しいなって思いました。
こんなこと、ないなって。
こんな経験、ないなって。
一生の淵で、最後の願いの1つ。
しあわせな旅行の思い出を抱えて、痛かったことや苦しかったことを超えて行くんだって。
そのお手伝いができたことが、
とても嬉しかったです。
私には、賞歴がひとつもありません。
でもこんなに光栄なことはなかったと思います。
お菓子がいつも力をくれる。お菓子がいつも出会いをくれる。感動さえ覚える。
菓子の道で良かったと思ったほどの。
そのお菓子は
フランボワーズのティラミスです。
【ティラ・ミ・スー】
私を天国に連れて行って。なんてよく言ったもんです。
今年もまた、ご冥福をお祈りします。旅行の続きを、たのしんで下さいと。
そしてまた、今を精一杯生きよう。
これは、もう10年ほど前でしょうか。
でもいつも思い出す、そんな出来事でした。
ただ自分の胸にしまっておけばいいこととも思います。でも忘れたくない。
人は忘却する生き物だとして。
東北の人ってシャイな方が多いじゃないですか。
でも毎年思い出すし。。。
毎年書くか迷う、忘れられない出来事で。
noteに収めることといたしました。
最後の淵で、食べたいものはなんですか??
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