芥川賞 おいしいごはんが食べられますように
芥川賞作品は苦手で普段手に取ることはないけれど、このタイトルにひかれて、つい購入してしまいました。
結果、この帯の言葉、そのまんまでした。
蒸し暑い日に、ねっとりとした汗が体にまとりつくような生々しさ120%の小説。描写も内容も生々しくて、本が呼吸しているかのよう。
登場人物それぞれが、「いるいる」と共感できる人ばかりで、内容も「あるある、わかる」という人間界のリアルが描かれている。
食にまつわる仕事をしている、もしくは私のように食に興味がある人が読んだら、どんな感想を抱くか聞いてみたい。
人それぞれ食に対する意識は違うし、何が正しいということもなく、その違いを受け入れることは大切なこと。
何を思うかは自由だけど、人にそれを強要するのはちょっと…カチンときます。それなのに、その人を好きという人間の複雑さが交差する面倒臭いリアルがこっけいにも思える反面、愛おしく感じる。
そして、主人公の二谷さんを演じるなら、俳優の高橋一生さんがピッタリだなぁと思ったので、頭のなかで高橋一生さんが演じている姿を思い浮かべながら読みました。
ヒロインの芦川さんが出てくる度にモヤモヤしてザワつきましたが、最後にこのタイトルを芦川さんが言ってると思うと、ちょっとゾッとした。
読む前は良さげに感じたタイトルが、読後、ねっとりまとわりつく嫌な言葉に変換された。さすが芥川賞。
そういう意味では、大成功といえる小説ではないでしょうか。タイトルまでもが生々しく感じ、イラストの人型に見えるスープの影すら威力が増して見えるのは私だけだろうか。