
読書の秋、読書感想文
どんな季節でも、本は読む。本との出逢いはいつやってくるかわからない。図書館の棚で、書店の平置きで。どんなタイミングで出逢うかも、一つの楽しみ。
今回の「課題図書」の中で、読んでみたいと思っていた作品を見つけた。読んでよかったな、と素直に思える、素敵な出会いだった。
「昨夜のカレー、明日のパン」を読み終わった日、夢を見た。
夢の中で私は風だった。気持ちよくそよいでいると、会話が聞こえてくる。声の主は、古いけれど磨きこまれた平屋建ての家と、その庭にどっしりと構えた銀杏の木。その家と、木が楽しそうに話している。
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ああ、銀杏さん。あなたはずいぶんと大きくなったね。お天道様と話ができそうだ。
いやいや、家さん。そんなことはないよ。あなたは変わらず美しいね。
それはありがとう。きっとそれは、ここにいる人たちが、いつもわたしを磨いて、風を通して、慈しんでくれているからでしょう。あなたのように、実をつけて、喜ばせてあげることはできないけれど。
銀杏の実は美味しいからね。実を食べた人たちが喜んでくれるのは、私も嬉しい。まあ、ちょっとにおいが強いのが珠に瑕だけれど。実が落ちるころ、庭から見上げてくれるのはいつも楽しみなんだ。
そうでしょうとも。ここに住んでいる人たちは、いつもあたたかくて、優しくて、ちょっとだけ寂しそうだ。
そうだね。人の一生は短いからね。でも、それが悪いって、誰も思っていないからね。
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目が覚めたら、私は私で、風ではなかった。夢心地のまま、あの家と、銀杏の木は美しかったな、と反芻した。ついでに、今日の夕飯は、よく煮込んだおでんを好きな人と一緒に食べたいな、と思った。
この作品に登場する人たちは、みんなあたたかい。
どの人も、少しずつ後悔や、希望を心に抱えていて、前へ前へと進もうと懸命に生きている。時々後ろを見たり、迷ったりすることがあったとしても。
人は、いや生きているものすべて、に言えることだけど、生まれてきたからには必ず最期を迎える。辛い別れになることもある。辛い思い出になることだってある。泣いても泣いても、どんなに後悔してもしきれないような喪失感に襲われることだってある。
それでも、残された人たちは、懸命に生きているのだ。
幸せに生きることって、なんだろう。ふと、そう思った。
仕事や学校で、一番の成績を収めること。
誰にも負けないくらい、お金持ちになること。
人の価値観は、色々ある。
けれど、思うのだ。大切な人と、大切な時間を過ごして、年を重ねていくことが、何よりも幸せなんじゃないかと。当たり前の日常を当たり前に過ごせることが、何よりも幸せなんじゃないかと。
私も、出来ることならそんな風に年を重ねたい。大切な人と一緒の時間を過ごして、土に還ることがあったら、あの夢みたいに風になって、大切な人と過ごした場所を清らかに吹きすぎていきたい。そう思った。