第5話 健全な批判精神とは
はじめに
学校教育は学習指導要領に基づいて行われます
現行の学習指導要領では、主体的な学び、という言葉をよく耳にします
端的に言えば、「いかに課題を発見するか」に尽きると思いますし
課題に気付くためには、問題を他人事にしないこと、
そして、情報を鵜呑みにせずに
「健全な批判精神」をもつことだと思います
今回のお題は少し難しそうなテーマですが、
高校生の皆さんにも分かるようにお話しします
では、さっそく…
第5話 健全な批判精神とは
皆さんが毎日触れている情報、特にネットに流れている雑多な情報は、
悪意をもって誰かが嘘を流しているわけではないにしても、
多くの人たちが善意のつもりでコピペして拡散させてしまったり、
ちゃんと自覚せずにリポストしてしまったりして、
最初の事実からは、はるかに遠ざかってしまっていることがあります
それが正しいかどうかを確認する手だてもわからず、
誰もが鵜呑みにするしかない、という状況になっているものも
たくさんあります
ネット上の情報だけでなく、週刊誌、スポーツ新聞、
大手の新聞社が手がける全国紙でさえ、
誤った記事を掲載する可能性はあります
この新聞にはこう書いてあるけれど、果たして本当なのだろうか
そういう気持ちで記事に接することは、姿勢としては健全です
何でもかんでも疑ってかかるべきだとは言いませんが、
自分を取り巻く情報の真偽に少しでも疑問を抱いたら、
一次情報に立ち返って自分で検証してみようとする姿勢をもつこと、
この健全な批判精神こそが、
現代人に共通して求められる「教養」というものの本質ではないか
と思うのです
話は変わりますが、先日、なにかのドラマを見ていたら、
イソップのお話に出てくる「ウサギとカメの話」を取り上げていました
「どうしてカメは、昼寝をしているウサギに声をかけなかったのか、
もしかしたら何かの理由で倒れているかもしれないとは
思わなかったのだろうか」という、小さな子どもが抱いた疑問です
細かい設定は省きますが、主人公の相手役の女性が
「私は見かけによらず努力型で、カメみたいなタイプなのですよ」
と言ったのに対して、
主人公はこんなふうに答えます
「カメは、全然頑張っていません
競争にも、勝ち負けにも、興味がないのです
カメは、ただ道を前に進むこと自体が楽しいのです
想像してみてください
地面を這いつくばって前に進むカメにしか見えない、
地面から数センチの世界
その素晴らしい世界を楽しむためだけに、
カメは、ただ前に進むのです
カメの世界に、もはやウサギの存在はなく、
寝ているウサギに声をかけなかったのも、そのためです」
ドラマでは、カメの解釈はここまでです
そうか、なるほど~、と思えればよかったのですが、
私は、素直じゃないのですかね
そりゃおかしいだろ?と思いました。
皆さんはどうですか?
動物行動学的なカメの生態からは、
先ほどの解釈は極めて正しいものなのでしょう
ただ、寓話では、ウサギとカメ、競争を挑んだのは、
そもそもウサギではなくて、カメの方です
そのことは、もしもしカメよ、カメさんよ、で始まるあの歌の
2番の歌詞にちゃんと書いてあります
自分から競争を挑んでおいて、勝ち負けに興味がない、と言われても、
ピンと来ません
さっき、健全な批判精神などと立派な言葉を使った割には、
少し事例がお粗末だったかな、と思いますが、
ただ、ほんの些細な身の回りの問題に目を向けて、
なぜ?どうして?と問う姿勢をもちつづけることは、
とても大切なことだと思います
今、皆さんが直面しているどんな問題にも、
なぜ?どうして?と問い続けること、考え続けることを、
どうか諦めないでください。
また、真偽の確認できないネット上の書き込みに対して、
どうか不用意なリポストすることは、厳に慎んでください
自戒の念を込めて、私たちはみんな、
「ぼーっと生きてんじゃねえよ!」
と叱られないようにしたいものです