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サイゼなあいつ#第一回サイゼ文学賞(非公式)


「ねぇ、あんたの彼氏ってどんな奴? まだウチら会ったことないよね?」
 アイナは最後まで残っていたポップコーンシュリンプを口に入れてしまうと隣にいるカナエに同意を求めながらアタシに訊いた。

「うーん…… 一言でいうと『サイゼな奴』ね」
アタシは少し考えたふりをしてから適当だったけどそう答えた。

「えー、何よ? サイゼな奴って?」カナエが眉間に皴を寄せる。この子のくせだ。

「サイゼってこのサイゼ? ここの?」アイナはテーブルをトントンと指さしそう聞く。

「そうよ。ここ、サイゼ」アタシもほとんど片付けられてドリンクのコップばかりが残るテーブルを指さした。

「えー、ここで働いてる男つまんだんだ」
 カナエは目を合わさずそう言う。一気に興味が失せたようだ。

「違うわよ、仕事じゃないよ」
「えー、じゃあ、あ、あれだ、最初のデートにサイゼ連れていかれたとか」
「うーん、確かにイタリアンだったけどサイゼじゃなかった」
「じゃあ、サイゼってどういうことよ」
 アイナはまだ興味があるようだ。
「だから、サイゼの感じな奴ということよ」

「なんか安っぽいていう感じ? それって全然イケてないじゃん」
 カナエはやはりメニューの間違い探しを見ながら言う。全部見つけられないくせに。

「それ、ウチの彼氏にもサイゼにも失礼じゃない?」
 アタシはカナエの観ているメニューを取り上げて少し口を尖らせながら言った。

「でもさあ、サイゼって、ウチら学生の時には値段が安くて一番使いやすかったじゃん」
 アイナが割って入った。けどフォローになってないよ、アイナ。

「今でもじゃん。そうよ、だからサイゼなのよ」
 アタシはカナエから目をそらさずに言う。

「あのさあ、男は高いほうがいいでしょ? いい大学、金持ち、いい会社に務めてる。それでイケメン、優しい。何十年たっても男の値打ちはそこよ」
 カナエはアタシが取り上げたメニューを覗き込みながら言う。だからアンタは全部みつけられないって。

「あのさー、じゃあ、お聞きしますけど」
「何よ」
 カナエは不服面でアイナの肩を指で突きだした。アイナは『ワインで酔ってるの?』という表情をしてカナエを睨み、突く指を掴もうとしている。

「アンタたち、そういう男、今まで一回でもツマメタことあった?」
指の取り合いをしているアイナとカナエは動きを止め、同時にアタシを見てから、また同時に口を開いた。

「「…… ないかー」」

アタシはがっくりと肩を落とすふりをした二人に、少しの優越感を感じながら残り少なかったをロゼを飲み干し、おもむろに姿勢を正す。

「いい? 男はね、器よ。器の大きさがあってこそいろんなことができるのよ」
 口から出まかせとはこのことだと思いつつ、そう切り出した。

「「うん」」
 二人も姿勢を正してアタシの言葉に返答する。

「ここ、サイゼも全国にチェーン店がある大きな器だからこそ、創業以来のサービス、リーズナブルなお値段、美味しい食事、美味しいワインが提供できるのよ」
 アタシは評論家気取りでそう言った。多分そうだろうと思いつつ。

「アンタ、いつからサイゼのPR担当になったの?」
 アイナが失笑を堪えきれないとばかりに口を手で隠し、カナエがそんなアイナを代弁して聞いてくる。

「彼はね、お金持ちでも高学歴でもないし、会社もそこそこ。だけどアタシにさあ。いつもそばにいてくれて、アタシが喜ぶことをしたがるのよ。アタシの笑顔が見たいっていうのよ」
 そう信じてアタシは言った。

「なんじゃそれ、ノロケかぁ」
 カナエはオーバーに両手をあげ首をふる。
「ハイハイ、ご馳走様、お会計にまいりましょうか」
 アイナはバックの財布を探しだす。

「ちょっと待ってよ」
 アタシは二人を制し、テーブルに置いていたスマホを手に取った。
「まだなんか追加するの? ウチはもういいよ」アイナはマジな顔をして言っている。
「間違い探し? 撮って帰る気でしょう?」
 カナエがアンタでも全部は無理よと言いたげにしていた。

 スマホのメールを開く。
「ごめん、仕事で遅くなった。今からサイゼ行くよ。アイナさんとカナエさんまだいる? 二人に挨拶代わりのお土産も買ってるからもう少し待っててもらって」

 きっと、この二人もサイゼのファンになるだろう。
 アタシは目の前の怪訝そうな面持ちの二人に「ね、もう一杯だけ、ワイン飲も。 お願い!」と手を合わせた。

完 1783文字

aiko キラキラ



福島太郎先生の企画、第一回サイゼ文学賞(非公式)に参加させていただきます。福島先生の名を汚さぬよう細心の注意をはらい、いつもの私の色ボケいちびり体質を一切排除した作品を投稿させていただきました。

福島先生お世話になります。宜しくお願いいたします。

なんやこれ、いつものジジィじゃないというコメントは前述の意味をくみ取りお控えいただくよう、特に仲良くしていただいている高齢者諸氏(男数名)はお気をつけください。

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