オリジナル短編小説 【袋小路に入った旅人〜小さな旅人シリーズ10〜】
作:羽柴花蓮
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「ねぇ」
と万里有はマーガレットに言う。もう寝る時間だ。明かりを消す前に万里有は言葉にした。
「大河、最近、変じゃない? 思い詰めているような・・・」
そうね、とマーガレットも言う。
「限界点に来ているのかもしれないわね」
「限界点、か・・・。お休み、マギー」
「お休み、マリー」
二人は嵐の前の静けさのような夜に眠り始めた。
朝、起きると大河はいなかった。
「兄貴なら早朝に出かけたぞ。なんだか実家に帰るような事を昨日、言ってた」
呑気そうに征希が言う。
「そう」
気遣わしげに万里有は答える。
「マリー。俺しか見ちゃダメ」
ぐいっと自分の方に向ける。
「もう。征希ったら」
万里有の頬がゆるむ。完全に恋人同士だ。
その大河が帰ってくると嵐が巻き起こった。なんと、万里有との婚約を破棄して、亜理愛と結婚すると入籍届を持って帰ってきた。
「すまない。マーガレット、万里有。私も勘当だ」
決意を瞳に宿して大河は言う。
「征希はあくまでもMBAを取れば万里有と婚約できるが、そうでないと他の女性と結婚させると言われた。すまない。征希」
弟にも謝る。征希は何も責めない。わかっていたのだ。
「それから、マギー。仕送りもストップだ。私の貯金を崩して生活費を渡す。明日にでも籍は入れるが、挙式は亜理愛の卒業を待つ。それが私のできる精一杯の事だ。」
そして亜理愛に向かい合う。
「こんなダメ男だが結婚してくれ。亜理愛しか私はもう見ることができない。偽りの生活はもう終わりにする。亜理愛と家庭を築きたい。ダメだろうか」
亜理愛は大河の胸に飛び込む。
「大河。私も大河が好き。ずっと好きだったの。でも万里有の許嫁でどうすることも出来なかった。待つしかできなかった。ごめんなさい。苦しかったよね。無理させてごめんなさい」
亜理愛は泣いていた。嬉しいのか悲しいのか本人も解らぬまま。
そこへマーガレット声がかかる。
「今からリーディングするわ。マリーは準備の間にカードを引いておいて。恋占いはできないけど、リーディングで未来への背中を押すことはできるわ。袋小路なのよ。みんな」
最後は呟くように言ったので万里有しか聞こえなかった。
もう、秋も半ば、時折、涼しげな風が吹く。野外のテラスでリーディングは始まった。マーガレットの目の前には大河と亜理愛が座っている。万里有はすこし遠くから見守っていた。マーガレットがいつものようにカードを並べる。
「二人で一枚のカードを選んで。今のあなた達なら同じカードが出るはず」
亜理愛と大河は顔を見合わせるが、すぐに同じカードを指さした。
さすが、恋人同士ね。
なんだかうら寂しい気持ちで万里有は見ていた。ずっと一緒だった子供達はそれぞれ未来の道に歩き出す。別れていくのだ。道が。もう同じ道には戻れない。寂しそうに見る万里有の横に征希が来た。
「俺がいるから」
そっと耳打ちする。
「うん」
小さく、万里有は答えた。
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