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疲労骨折・骨粗鬆症🦴


女性アスリートの三主徴(Female Athlete Triad)の1つである骨粗鬆症は東洋医学的視点でみるとアスリートに多い疲労骨折も含まれるのではないか。

骨粗鬆症とは骨強度の低下により、骨が脆くなり骨折しやすくなる骨疾患で、閉経以後の女性に好発します。
また疲労骨折とは骨の同一部分に、外力が繰り返し加わることで起こる骨折です。一度にかかる力は強くなくても、何度も続けて力が加わると、金属疲労のようにその部分が脆くなっていきます。


両者は同義語ではありませんが、何故そのように考えるのか。
東洋医学的視点で見ても両者共に骨と関与し、どちらも腎(精)の遣い過ぎにより起こるものだと考えられるからです。
     

『腎は骨を主る』

『素問』宣明五気篇(23)

腎は人体の骨髄を主る』

『素問』痿論篇(44)


精とは身体を動かす根本的な力であり、髄とは骨の中にある大切なエキスという意味です。


「長距離を歩行して疲労したり、日に照らされたりすると、熱が内攻して腎水が枯れてしまう。すると髄液も枯れて足がガクガクしだす。それは腎熱になるからだ。」と池田政一先生の著書である素問ハンドブックでもイメージのしやすい解説があるようにこれが連続して走ったり、跳んだり、投げたりと更に大きな力を出す動きになると益々、骨、腎への負担が高まり、疲労骨折へのリスクが高まるであろうことが想像できます。

ちなみに陸上競技の短距離選手と長距離選手では身体つきが違います。
短距離選手は短時間にいかに強い力を出すかという競技ですので、肝の主る筋が発達しています。
反対に長距離選手はある一定の力をどれだけ長く出し続けるかという競技ですので、肌肉や筋よりも骨に比重がかかった身体になっています。


長距離種目を専門とする女性アスリートにとって日々のトレーニングの負荷が高くなればなるほど疲労骨折のリスクを避けることは難しくなるのが現状です。また閉経によりエストロゲン(女性ホルモン)欠乏から骨粗鬆症のリスクが高まる現象と同じく日々のトレーニングによって無月経の状態が長期にわたり続いているアスリートも骨密度、骨強度の低下が見られます。

エストロゲンは破骨細胞の働きを抑制し骨吸収を抑えます。
閉経により急激に減少するので破骨細胞の働きが活性化し、骨量も急速に減少していきます。
反対に男性ホルモンと呼ばれるアンドロゲンは骨強度の低下を緩和します。このため男性は女性に比べて骨粗鬆症、疲労骨折は少ないように感じます(もちろん全ての男性においてではありません)。


無月経によるエストロゲン欠乏に対してホルモン剤の投与を積極的に勧められていますが、これもまた安易に使用することで西洋・東洋医学的両視点において問題があることも臨床現場で実証されており、今後も個々が向き合っていくべき課題ではあります。

ホルモン剤に限らず、薬は全般に胸に熱を持たせる傾向にあり、脾胃に負担がかかることで本来の証ではなく、脾虚になっていることが多く、それだけで治りにくい状態へと導いてしまっているのです

手軽に使用できるという積み重ねにより引き起こす薬害の代償、いわゆる副作用による疲れは本当に恐ろしいものです。

少し話はずれますが、月経時(中期から後期)はトレーニングの負荷が強いと故障のリスクが高まると言われるのは気、血、津液の消耗により血虚、(肝腎)陰虚の状態になり、一時的な腎の固摂の緩和により関節や骨盤が緩みやすくなる為と考えられます(産後の骨盤の緩みも同じように考えてよい)。
リラックスからイメージされる緩みとは違う上記のような状態で大きな力を出そうとすると当然故障に繋がることは想像がつくはずです。


では日々のトレーニング量の問題を除いて、腎(精)の消耗・使い過ぎを抑えるにはどうすればよいのか?


それは甘味の摂り過ぎ・偏りに注意をすることです。


甘味は人体のあらゆるものを緩める作用を持っています。
骨はしっかり固まっていないといけません。
心身の緊張を緩めるには適度な甘味は必要です。
しかし、必要以上に摂り過ぎると緩み過ぎることで腎精は漏れ出ていきます。身体のあらゆる部分に締まりはなくなり、骨も脆くなっていきます。


子供は両親より生まれ備わった腎精を漏らしながら成長していきます(身体を大きくしていくという意味)。
現代はファストフード、菓子パンや清涼飲料水などの人工的な甘味がすぐに手に入る環境であり、幼少期から口にする機会が増えています。そのような環境が成長期の段階で確立していると、知らず知らずのうちに甘味の摂り過ぎにより、幼少期からの肥満傾向や脆い骨になっている可能性は高くなります。
理想は穀物や芋類で自然な甘味の摂取ができるといいですね。


アスリートはこれ以上やると危険だなと思うギリギリの状態で日々厳しいトレーニングに励んでいます。
しかし身体の内側部分に対しては直接可視化し辛い為に無理をしてしまいます。


痛いと言えない環境、休むことが恐い、休み方がわからない、そんなアスリートはたくさんいることが現状であり、選手生命を絶った者も少なくありません。


トレーニングに限らず、やりっぱなし、使いっぱなしではいけません。
身体が疲労したならば、当然栄養補給をし、睡眠や休息をとって回復に努めます。 心が緊張して疲弊しているのであれば適度に甘味を摂ったり、お風呂に浸かったり、好きなことをして心の緊張を緩めてあげればよいのです。
その場面に応じて対処してあげれば取り返しのつかない最悪の状態は避けられます。


そして、腎(精)の使い過ぎを抑える方法としてもう1つ大切なことがあります。


それは心や時間にゆとり、余裕を持つことです。


気を遣い過ぎたり、焦ったりすることで腎精は消耗します。
トレーニングで強い負荷がかかることは常に上を目指すアスリートである限り仕方のないことです。
だからこそ、トレーニング以外の時間をどのように過ごすか、どのような思考で過ごすかで個々の競技力、パフォーマンス能力に差が出て来ます。

女性アスリートの三主徴といわれる骨粗鬆症(疲労骨折)、視床下部性無月経(運動性無月経)、利用可能エネルギー不足(以前は摂食障害)これらは陰陽・五行のバランスの崩れであり、一つでも支障が起こると全て関連して、心身は崩れていきます。

折れた骨を鍼灸で修復することは難しいですが、その状況に至るまでの段階でアプローチすることは可能であり、また折れた心を一日も早く復帰する為に気血の循環のお手伝いをすることは鍼灸の得意分野です。



鍼灸施術とは痛みのある部分にアプローチするのではなく、全身の気血を動かし、滞りを取り除き巡らせるものです。
本来はとても気持ちの良いものです。


今も尚研究段階ではありますが、鍼灸師、トレーナーやアスリートと関わる全てのものにとって未来ある子供達、アスリート達の選手生命を守る1つとして知っていただける機会となれば幸いです。
 

*あとがき*
鍼灸、東洋医学の世界に迷い込んで10年。

自身は骨折も疲労骨折も経験はなかったけれど、周囲で癖のように何度も何度もなっている選手を現役の頃から目にする機会が多く、まるで自身がその状況になったかのようなどうしようもない気持ちで過ごしていたことを今でも鮮明に覚えています。

シンスプリントライン、中足骨、小趾骨、仙骨、大腿骨...
サポートする側の立場になり、折れる直前、折れた後の状態を何度も触診する機会をいただいたおかげで最悪の状況を死守できるようになりました。

疲労骨折に限らず、痛みに慣れているんですなんて言うものではありません。
 
自身をもっと大切にする術を身につけて欲しい、その一心でこうして細々と活動を続けているのです。

腎を強化するには黒いものを食べるとか、硬いものを食べるとか、よく噛んで唾液を出すとか、腎の弱りを象徴する白髪のある学生アスリートは特に骨折や骨の疾患に注意するとか、これまで出会った疾患と東洋医学の観点を照らし合わせながら今後積極的に共有していける場と出会えることを切に願います。

ほんの少し興味を持ってくださった方、たまたま目にしてくださった方、本当にありがとうございます。

一陽来福

その魂にひとすじの光となりますように。

                      2022.12.22(木)冬至🍊にて

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