ZEROから始める血盟生活 No. 27
水車小屋へ到着したスバルとZEROのメンバーは小屋の中が何やら騒がしいことに気付く。
「おい、なんか小屋の中が騒がしいな!皆んな、気づかれないように少し様子を見るぞ。」
スバルの指示で茂みに身を潜めながら小屋の様子を伺っていると、中から黒い三角頭巾に黒いマントを羽織った男が小さな女の子を抱えて出てきた。
女の子はグッタリとしていて動かない、黒マントの男は焦った様子で少女を抱えたまま隣の小屋へと入っていった。
「スバるんどうしよ?あの女の子を助けようか?」
ルウがスバルに指示を伺うと、彼は少し考えてから返事をする。
「そうだな、レム、レオ、アウの3人は隣の小屋に行ってくれ、それ以外は俺と一緒に水車小屋へ行くぞ!」
スバルは3人1組に別れて二つの小屋を同時に攻め込む提案をした。
皆も彼の指示に従い、それぞれの小屋へと向かった。
「俺が合図をしたら、かっさんとルウはエミリアと ねこを助けに向かってくれるか。」
「分かったん ♪」
「ふむ。」
そして、スバルが小屋の窓から中の様子を伺うと、ペテルギウスが今まさに見えざる手で
ねこを攻撃しようとしている所であった。
(アレはペテルギウス!? 何故ヤツが生きているんだ…。いや、今はそんなコトを考えている暇はない!!)
「かっさん!!ねこが危ない!直ぐにそのデカイ盾で ねこの前に立ち塞がってくれ!!」
ペテルギウスの見えざる手はスバル以外には見ることが出来ない、普通に牛かつを ねこの元に向かわせても、見えざる手の餌食になるだけだろう。そう思ったスバルは彼の持つ大きな盾を ねこの前に置いて身を守る方が確実に防ぐことが出来るであろうという彼なりの咄嗟の判断だった。
「むう!?」
牛かつはスバルの指示に、つぶさに反応して小屋の扉を開け、ねこの前に立ち塞がりながらその手に持つ大きな盾を床の上に『ドスンッ!』と置き構えた。
『ガキンッ!!』
金属同士がぶつかるような甲高い音と衝撃が盾を通して激しく伝わってきた!!
こんなものを直接受けたらひとたまりもない!しかも何に攻撃されたのかすら分からない。
これは厄介な攻撃だと牛かつは感じ取っていた。
しかし、自分にとって大切な盟主を守ることができ、牛かつは安堵しながら後ろに居る ねこまんまへと笑顔を見せるのだった。
「へへ〜ん!!待たせたな ねこ!ギリギリセーフってとこだな 」
〜ここから ねこ目線に切り替わる〜
私が思案して送ったメッセージをスバルはどうやら理解して助けに来てくれたみたいだ。
しかもZEROのメンバーを助っ人に連れてくるというオマケ付きで!!
「ありがとうスバル!皆んなも一緒に来てくれてありがとう!でも、どうやってこの世界に来れたの?」
「ああ、コイツらはベア子が気を利かせてくれてな、扉渡りで連れて来てくれたんだ。」
なるほど、私をリネの世界に戻せるということは、逆に連れて来ることも出来るってわけね。
ペテルギウス達を倒せて屋敷に戻れたら、後でベアトリスに御礼を言わなきゃね!っと言っても、どうせまた嫌味を言われるんでしょうが…。
「あら、貴方また会ったわね。今日こそ貴方の新鮮な腸(はらわた)を観させてくれるのかしら?」
「げっ!!お前は…エルザ!!!お前も居たのかよ。」
今まで静かに傍観していたエルザがスバルを見て、嬉しそうに反応してきた。
スバルの方は厄介な奴が居るといった顔つきだったが。
そこへ、怒り狂ったペテルギウスもスバルの登場で更に激しく激昂していく。
「ナツキ・スバル…… お前だけは… お前だけは絶対に許さないのデス!!この崇高なる大罪司教怠惰担当ペテルギウスに剰え敗北と言う汚名を味あわせてくれた罪は万死に値します!貴方に、この怒りを再びぶつける機会をお与え下さった、あの方のお慈悲に報いる為にも!このペテルギウス、全身全霊を持って挑ませて頂くのデス!!あ〜〜脳が、脳が震える〜〜!!!」
あ、危ない奴だなぁ〜もう殆どいっちゃってるよこの人…。
その場に居たZEROのメンバー含め、皆が呆れ顔でペテルギウスの狂乱振りを眺めていると、スバルだけは慣れているといわんばかりの冷静さで私に話しかけてきた。
「ねこ、奴の見えざる手は見えているか?」
「え? 見えざる手?? あの黒い手が何本も攻撃してくるヤツのこと?」
「よし!もしかしてと思っていたが、やはり見えているんだな。あの黒い手は、俺達以外見えないんだ!」
スバルに言われて初めて知った。
私同様、皆んなにも見えていると思っていた、あの黒い手は、私とスバルにしか見えていないそうだ。
「だから、俺とねこ、そしてエミリアの3人でペテルギウスを相手にしよう。エルザはルウとかっさんで何とかして貰おうと考えてんだが…。」
「うん、分かった。二人にそう言ってくるね。」
私は二人の側に行き、スバルの提案を伝えた。二人とも見えざる手の事を話すと、納得したのか、すんなりと承諾してくれた。
「さあ!!気張れよ皆んな!!コイツらに勝って全員で屋敷に帰るぞぉ!!ねこ!お前が最後の合図を出してくれ。」
急に合図を出せと振られてビックリした私は、少し考えて、やはりいつも血ダンで行なっている出撃の合図を出すことにした。
「でわ。」
「………」
「………」
「突然にゃあぁぁぁ〜!!……あっ。」
『ズコ〜〜ン』
緊張が頂点に達していた皆んなは、私の思わぬ誤合図にZEROやスバルは勿論のこと、普段真面目なエミリア迄も一緒になってズッコケてしまった!!
「ご、ゴメン。かみまみたw」
「てめぇ、ワザとだろぉ〜!」
スバルにキツイ突っ込みを入れられ、かなり落ち込んだが、気を取り直して再び合図を出す許しを得た。
「で、でわ。」
「突撃にゃあぁぁぁぁ!!」
こうして、いよいよこの世界での最終決戦の幕は切って落とされたのだった!!
〜 エルザVSルウ、牛かつ 戦〜
スバルの腸(はらわた)を観れると思っていたのに自分の対戦相手が彼では無かったのを少し残念に思ったエルザだったが、改めて相手を見ると何やら自分と同じ雰囲気を持つ者がいる事に気付き、思わずペロリと唇を舐めて喜んだ。
「あら、残念だわ。私の相手は、彼の子(あのこ)ではないのね…。でも、貴女もなかなか……何だか私と同じ匂いがするわ。」
それは、ルウさんも同様に感じ取っていた。
三度の飯より戦闘好きであり、生粋の戦闘狂であるルウさんは、目の前に居る魅惑的な女性もまた自分と同じであることに。
「あはは ♪ だねぇ。私も同じこと考えてたよぉ〜。ちょっとこの女(ひと)とは差しで勝負したくなっちゃったよぉ ♪ 悪いけど牛かつさんは見ててくれるかなぁ!」
何とルウさんはエルザと一対一で戦うと言い出した。
牛かつさんは彼女の顔が既に戦闘狂としての喜びに満ちた顔つきに変貌していることに気付いていた。
ここで余計な手出しをしては返ってルウさんのプライドを傷つけてしまうと思った彼は、本当にどうしようもない状態になるまでは黙って見守る方が良いと判断し、静かに頷いたのだった。
「うむ。」
「ふふふっ ♪ ありがとねぇ。さぁ早速始めようかぁ!」
エルザにとってもこの展開は望むべきものであった、二人を同時に相手にするよりも、一対一で戦う方が圧倒的に有利だからである。
もっとも、彼女もルウさんと差しで戦いたいという願望の方が強かったのだが。
「あら、嬉しいわ。貴女がどんな腸を私に観せてくれるのか楽しみね! うふふっ 」
ルウさんの武器は知っての通り短剣である、防具は軽装で身軽に動くことが出来る。
その特徴を生かした戦い方は、スピードと手数で相手を圧倒するといったスタイルだ。
一方のエルザもバタフライナイフの様な短剣を持っており、服装は黒のドレス姿と、何とも妖艶な格好をしている。
そう言えば、ルウさんもリネの世界でよく黒紫のドレスを着ているのを見かける。
やはりこの二人はよく似ているのだ。
暫く、お互い睨み合いが続いたが、 先に動いたのはルウさんの方であった。
空中高く跳び上がり、両手で短剣を掴みながら自分の体重を乗せての一撃必殺を狙う!
「ふぅ……。どうやら私の勘違いみたいだったようね。そんな見え見えの攻撃では斬って下さいと言ってるようなものよ!」
エルザの言う通り、これでは動きも単調で隙だらけだ。
彼女は残念そうな顔で、バタフライナイフを右から左へと一線して、ルウさんの腹部を斬り裂いた!!
すると、ルウさんのお腹から赤い鮮血が噴水のように吹き出す……
かのように見えたが、今まで空中にあったはずのルウさんの姿がフッと消えて無くなったのだ!!
「なっ!?」
エルザが斬ったルウさんは残像だったようだ!
思わず驚いてしまった彼女の動きが一瞬止まってしまう。
手練れ同士の戦いで、この一瞬という時間は致命的になってしまう!
エルザは自分の背後に冷たい気配を感じ、直ぐさま振り向き態様しようとするが、残像を残して素早く後ろに回り込んだルウさんは、彼女の首に腕を回しながらナイフを持つ手首を掴んで羽交い締めにして押さえ込んだ。
「はぁ、 残念なのは私の方なん♪ こんな古典的な手に引っ掛かっちゃうなんて…あ、こっちの世界では古くないのかなぁ…」
「くっ!!」
一瞬、苦虫を磨り潰したような顔をしたエルザだが、空いているもう一本の手を使ってルウさんに攻撃を仕掛けた。
本来ならば、そのくらいの攻撃で、折角捕まえたエルザを離すはずはないのだが、何故かルウさんはエルザを突き放しながら大袈裟と思えるくらい大きく後ろへと飛び退いた。
「ごめんなさい。貴女を少し見くびっていたようね。少しだけ本気を見せてあげる。」
そう言って体勢を整えたエルザの両手にはバタフライナイフが握られていた。
一本だったはずのナイフが二本!?
「私も謝っておこうかなぁ♪ でも、一体何処から二本目を出したのかしらん?」
「あら、女には色々隠す所があるのよ。貴女にも分かると思うのだけど?」
(女が隠せる場所??何処よそれって……。
女の私にも分からないんだけど??)
内心でそう思っていると、スバルが私にナイフの隠し場所を聞いてきた。
「おい、女の隠し場所って一体何処なんだ?」
「え?? ああぁ…ええっと…。」
私が返答に困っていると、エミリアが後ろからスバルの頭を拳骨で『ガンッ!』っと殴りつけた。
「もぅスバルったら野暮なこと聞かないの!!」
(え!? もしかしてエミリアは分かるの!!?)
「痛ってぇ!?しょうがないだろぉ!男の俺には分からないんだから…」
隠し場所の事は、後でエミリアに教えてもらうことにして、今は兎に角、ルウさんとエルザの戦いに集中しよう!
気を取り直して二人を見ると、お互い腰を低くし、既に戦闘体勢に入っていた。
また暫く睨み合いが続くのかと思いきや、今度は二人が同時に動き出した!!
は、速い!!!
目で追うのがやっとな位の斬り合いだった。
二刀流になったエルザの攻撃スピードは凄まじく、斬りつける腕が数十本にも感じるような速度なのだが、それでもルウさんは一本の剣で凌いでいる!
どうしても剣で弾くことが出来ない攻撃は体を後ろに反らし、相手の剣先を数ミリ単位で見切り交わしている。
なかなか当たらない攻撃に業を煮やしたエルザが自身の体を回転させ遠心力で更に速度と威力を増した一撃を仕掛けた!!
これを何とか短剣で防いだルウさんであったが、遠心力で威力の増した攻撃に耐えきれず、垂直に体が吹っ飛びそのまま壁に激突してしまった。
「ぐはぁ!!」
ルウさんの顔が激突のダメージで苦痛に歪む!
どうやら壁にぶつかった際に口の中を切ったのか、ルウさんの口からはタラリと血が流れていた。
その血をペロリと舌で舐めると彼女の顔が今までより更に高揚した狂戦士の表情へと変貌していく。
「面白い……。こんなに楽しいのは久し振りなん ♪ もっと、もっと楽しもうよぉ〜」
壁を蹴りながら勢いよく飛び出したルウさんを待ってましたとばかりにエルザのバタフライナイフがルウさんの顔面へと鋭く突き刺さる!!が。
な、何とルウさんはそれを自分の歯で受け止めた!『ガキンッ!』「ぐっ!!」『バキンッ!』そのまま顎に力を込めてナイフを噛み砕くと、口の中に残った刃片をエルザの顔目掛けて吹き飛ばした。
自身の顔面目掛けて飛んできた刃片をエルザは反射的に両手で防いでしまった。
そのガラ空きになった彼女の腹部にルウさんの膝蹴りが炸裂する!
「ぐほぉっ!!」
エルザの体がくの字に曲がり、そのまま倒れ込みそうになる彼女の髪を鷲掴みにして止めたルウさんは、エルザを先ほど自分が激突した壁へと力任せに放り投げたのだ。
『ゴォンッ!』
激突の寸前で、なんとか体を捻ったエルザだったが、勢いまでは殺すことは出来ず背中から壁にぶつかってしまう。
「はぁ、はぁ、はぁ ……」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
流石に疲れたのか、両者の息が上がっており、肩で息をしている。
「驚いたわ、まさかここまで私が追い詰められるとは……。貴女一体何者なの?」
ルウさんは、口の中に残った刃片を自身の血と一緒にプッっと吐きす捨てながら口元を腕で拭うとエルザをジッと睨みつけた。
「私はZERO血盟の副血盟主ルウよ!この世界の人間ではないから聞いてもしょうがないけどね。」
『!?』
それを聞いて少し驚いた表情をしたエルザだったが、直ぐに納得したかのように言葉を返した。
「そう、異世界にも貴女みたいな女(ひと)が居るのね…はぁ、残念だわ。もう少し貴女と戦っていたいのだけど、そろそろ次の仕事の時間なの。悪いけど私はこの辺で失礼するわ!」
そう言うとエルザは後ろの壁を双剣でぶち破り粉塵と共に姿を消してしまった!?
「え!?」
ルウさんは突然消えてしまったエルザに対して、呆気に取られ呆然とその場に佇んでいた。
まぁ、別に倒さなくても私達が無事に帰れれば問題ないので、エルザが居なくなってくれた事はそれはそれで良いのだが、好敵手が消えてしまったルウさんは、気が抜けてしまったようで、元気が無くなってしまった。
「うそぉん…これからが良い所だったのに…」
「まぁまぁ、取り敢えずお疲れ様。後は私達がなんとかするからルウさんは少し休んでて。」
これからが良い所と言うが、ルウさんは全身ボロボロで頭と口からは血が滴っており、とても戦える状態では無いように見えた。
私は、ルウさんの肩をポンッっと叩いて治療がてら休憩するように促した。
「うん、そうさせて貰うん。」
そして、エミリアにルウさんの治療を頼んだ私は、何故かルウVSエルザ戦を黙って観戦していたペテルギウスと改めて対峙し、戦闘体勢を整えるのであった。
らんちゃん♪
@rantyann_0627
https://twitter.com/rantyann_0627
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