ZEROから始める血盟生活 No. 25
スバルに監禁場所を知らせるヒントを出してから数時間後、小屋の扉が開く音がして、エミリアと私は扉の方を向き誰が入って来るのかを固唾を呑んで見守った。
扉から入ってきたのは一人の小さな女の子だった。
銀髪で紫苑色の瞳に透き通るような白い肌、セミロングの髪を紫の丸い玉が二つ付いたゴムで結んでいる。
年の頃は8〜9歳くらいだろうか?
まだ幼さが残っていて大変可愛らしい。
彼女は、サンドイッチと飲み物を乗せたお盆を持っており、こぼさないよう慎重に私達の元へ運んでいる。
「うんしょ、うんしょ…。あわゎ〜おおぉ!? ふぅ〜危なかったデス。よいしょっと!」
途中、あわやお盆を落としそうになったが、何とかこぼさずにここまで運んで来れた。
「はい、お姉さん達のご飯デス!どうぞ召し上がれ〜♪」
私は一生懸命に私達のご飯を運んで来てくれた少女のことが気になり、誰なのかを聞いてみることにした。
「ありがとう!あなたは誰なの?アーリア村の子供?」
その少女は自分が運んで来た食べ物をジーっと見つめながら答えた。
「違うデス!ワタシはお父様に造られたホムンクルスデス!名前はα(アルファー)デス!」
「ホムンクルス!?人造人間ってこと!!?」
アルファーと名のった少女は食べ物をジッと見つめるだけで、それ以上は何も答えてはくれなかった。
「何をしているデスか、早く食べるデス!!」
そう言われても、そんなにジッと見られていては食べにくくてしょうがない。
「アルファーも食べたいの?良かったら一緒に食べる?」
エミリアも私と同じ気持ちだったに違いない、彼女に、3人で一緒に食べようと誘ったのだ。
するとアルファーは綺麗な紫苑色の瞳を輝かせて即答した。
「本当に!? 私も食べていいデス?」
「うん、皆んなで一緒に食べよ!」
よほどお腹が空いていたのか、アルファーは夢中でサンドイッチを食べだした。
「可愛いねエミリア。でも、この子って何となくエミリアに似てない?」
「そうかな? …そう言われてみれば似てるかも!」
二人でこんな会話をしていると、誰も居ないはずの背後から、誰かが急に話しかけてきた。
「やはり気付いたのね。その子は貴女の髪の毛を媒介に造られているのよ。」
私が声のした方に振り向くと、そこには20代前半と見られる女性が壁に持たれながら腕を組んで立っていた。
セミロングの黒髪で黒眼、黒のドレスを着ており、泣き黒子が印象的で、女の私から見ても美しい魅力的な女性だった。
「エルザ!?貴女がどうしてここにいるの!」
私と同様に後ろを振り返っていたエミリアが黒ずくめの女性の名前を驚いた様子で叫んでいた。
それと同時に、私は『エルザ』と言う名前に聞き覚えがあることに気がついていた。
確か、スバルがこちらの世界に来て、初めて殺された者の名前が『腸狩りのエルザ』だったような…。
もし、私の記憶が確かならば、このエルザと呼ばれた女性は相当ヤバイ女性な筈だ!!
「エ、エミリア…。スバルに聞いたんだけど、も、もしかしてこの人が腸狩りのエルザなの!?」
「う、うん。」
私の質問に答えたエミリアの頬には冷や汗が一粒タラリッと流れている。
彼女が相当に危ない女性であるとエミリアの様子を見ても明らかだった。
「あら、私のこと、覚えていてくれたのね。光栄だわ。 ふふふ。」
エルザは不敵な笑みを浮かべて笑っていた。それにしても、大罪司教ペテルギウスといい今度は腸狩りのエルザまでもいるなんて、こんなの私一人じゃとてもではないがエミリアを守りきる自信がないわ…。
やはり、スバルが助っ人を連れてここへたどり着くまで大人しく待つしかないわね。
なるべく彼女達を刺激しないようにしないとダメね。
そんなことを内心で考えていると、いつの間にかエミリアがエルザを質問責めにしていた。
「アルファーが私のホムンクルスってどう言うことなの?それに、大罪司教とはどういう関係?そもそも貴女達は何の目的で私達をこんな所に閉じ込めているの?」
あ〜〜〜〜……エミリア、そんなに彼女を刺激したらダメ〜!!
下手したら今すぐにでも私達殺されちゃうから〜。
「エ、エミリアさん。あの〜……。」
「今、エルザと話してるの! ねこは少し黙ってて!」
「あ、はい……。」
彼女を刺激しないように注意しようとしたら、逆に注意されてしまった。
まぁいいか。エルザが襲って来たら直ぐにでも対処出来るようにしておこう。
私は腰の双剣に手を掛けながらいつでも動けるようにし、エミリアとエルザの話を見守ることにした。
「エルザ。どうなの?早く答えて!」
「うふふ。 別に貴女の質問に答える義理はないのだけど。まぁいいわ、私に分かることだけ答えてあげるわ。その子はね、貴女の代わりに試練を受けさせる為に造られたの。」
「試練?ロズワールもそんなこと言ってたけど、そもそも試練って一体何?」
「その質問には答えられないわ。悪いけど、私も知らなの。」
「……。じゃあエルザとペテルギウスの関係は?」
「私は依頼人にここへ来るように言われただけで、彼とは今日初めて会ったの。」
「その依頼人って誰なの?」
「それは言えないわ。これでも一応プロの殺し屋なのよ。もういいかしら?」
「じゃあ、最後にホムンクルスって何?」
「………。」
え!? エミリアさん。それ知らないで質問してたんですかー!
まぁ無理もないか…。
髪の毛から造られたって言ってたし、おそらくエミリアの細胞を使って作ったクローン人間ってところかしら。
この世界では、まだ知られていない技術なのだろう。
私はエミリアにホムンクルスの事を、わかりやすく説明してあげた。
最初は驚いていたが、説明が終わる頃には何とか理解出来たみたいだ。
「ねこの言うことが本当なら、アルファーは私の妹みたいなものってこと!?」
「う〜ん、ちょっと違うけど、まぁそんな感じかなぁ?」
「あら、これは驚いたわ。私も最初に聞いた時は信じられなかったのに、そちらの貴女はよく知っているようね。貴女何者?」
しまった!!!
よく考えたらエミリアの反応はごく当たり前のことだったのだ。
それ程、科学技術の発展していないこの世界でクローンの事など知っている人間は極めて少ないはずだ、それこそほんの一握り程度だろう。
エルザが怪しむのも仕方がない。
私はどう弁解すればいいのか考えていると、小屋の扉が開き、そこからペテルギウスとその部下達がゾロゾロと部屋に入って来た。
「何やら騒がしいデスね。何かあったのですか?」
すると、今までサンドイッチに夢中だったアルファーが、ペテルギウスの声に反応して勢いよく彼の元へと駆け出していった。
「お父さん!!」
『はぁ!!!?』
私とエミリアはアルファーのビックリ発言にお互い顔を見合わせて驚き、空いた口が塞がらなかった。
「お〜〜アルファーさん、貴女がどうしてここに居るのですか?」
「ウンとね。お父さんのお手伝いをしようと思って、お姉さん達に毒入りのサンドイッチを持って来たデス!」
「なるほど!ほど、ほど、ほど。やはりアルファーさんは私に似て献身的なのデス!!」
うん??毒入りのサンドイッチ?確かサンドイッチはアルファーが全部食べてたような…
そう思った矢先、やはりと言うべきか、毒入りのサンドイッチを食べたアルファーが急に喉を押さえて苦しみだした。
「ぐゔぅ〜〜!お父さん苦しいデス!」
「ぬぁ〜〜!!アルファーさん!!どうしたのですか〜〜!!!」
ペテルギウスは、毒入りのサンドイッチを食べて苦しむアルファーを抱きかかえて右往左往している。
「そこの貴方!!」
「ギィ!」
「そう、貴方です!直ぐにアルファーさんに解毒薬を飲ませて来て下さい!もしも死なせたりしたら怠惰の罪で貴方を殺します!」
「ギ、ギィー!!」
彼はアルファーを部下に預けると怒り狂った様子で、私達を睨み付けた。
「よくも…。よくも私の可愛いアルファーさんに、あのような苦しみをさせましたね〜!許しません、許しません、許しません!貴女達は絶対に〜許さないのデス!!」
「ちょっと待って!私達はサンドイッチに毒が入ってるなんて知らなかったの!そもそも毒入りサンドイッチを持ってきたのは、あの子の方で…。」
私は必死に弁解したが、ペテルギウスは聞く耳を持たず、見えざる手を私達目掛けて繰り出してきた。
私が最初の一撃をサッと身を翻して躱すとペテルギウスは驚いた顔をし、一旦見えざる手を引っ込めた。
「今、躱しましたか?…貴女、もしかして私の見えざる手が見えているのですか?」
「はぁ!? 一体何の事を言っているの?その黒い手のこと?普通に見えるけど、それが何か?」
私はペテルギウスが何故驚いているのか直ぐには理解出来ないでいた。
後で聞いた話だが、エミリアにはペテルギウスの繰り出す黒い手が見えていなかったようなのだが、この時の私はそれを知る由もなかった。
「あり得ない、あり得ない、あり得ないのです〜!!ナツキ・スバルといい貴女といい何故私の見えざる手が見えるのですか〜!!こんなことはあってはならないのです!貴女には今、ここで死んでもらいます!」
っと言いつつ今度は数十本もの見えざる手を私目掛けて繰り出してきた!!
ダメだ!!この数は幾ら何でも防ぎきれない!っと思った瞬間!!!
『ガキンッ!!』
私の前に黒い大きな人影が現れてペテルギウスの攻撃を誰かが紙一重で防いでくれたのだ!
「ふぅ〜〜。危ない所でした!!ねこさん。」
『!!?』
「ぎゅ、牛かつさん!!?」
何と!危うく見えざる手の串刺しになりそうになった私を助けてくれたのは、ZEROのメンバーで、私の大好きな牛かつ様だったのだった!!
「どうして牛かつさんが此処に!?」
急に現れた牛かつさんに驚いていると、私に対して背を向けながらニッコリと笑う牛かつさんの股の下から、今度はルウさんがヒョッコリと顔を出した!
「あはは♪ 私もいるよぉ〜 ねこっち♪」
「ル、ルウっちまで〜!!」
「へへ〜ん!!待たせたな! ねこ!!ギリギリセーフってとこだな。」
小屋の入り口からした声の主はナツキ・スバルであった!
監禁場所を知らせるヒントを出してから数時間かかり、スバルは何とZEROのメンバーという助っ人を連れて、ようやく小屋まで辿り着いたのだった!
らんちゃん♪
@rantyann_0627
https://twitter.com/rantyann_0627
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