花泥棒と自転車泥棒【ショートショート】
誰からも見向きされなくなった空き家の花壇に、こぼれ種で花が咲いた。
リアンは、姉さんの布裁ち鋏でチョンチョンとその花を切り、青いリボンでくくった。
🌼
丸太を一本架けただけの、ささやかな橋を渡る。
小川の橋の下にずっと放置されたままの自転車がある。油を差せばまだ動きそうだ。膝をついて手でペダルを回してみる。
よし、上々。
リアンはギコギコ自転車を漕ぎ出した。
🚲️
「おい、小僧!その自転車、どこから盗んできた」
「リアン!そのお花どうしたの?まさか、教会の花瓶からくすねてきたんじゃないだろうね」
「フンッ、言ってろよ」
雑草が伸び放題の空き家の庭で、こいつらは誰かに見てほしくて、必死に咲いていたんだぜ。
あの家に住んでいたおばあさんは、誰からも相手にされないままあの家で死んでいった。最後に言葉を交わしたのは、この僕だ。
「その花壇に花が咲いたら、リアンにも分けてやろうね」
って言ってくれた。
この自転車だってさ、誰かが勝手に小川に棄てて、ずーっとずーっと持ち主のいないままひっそり錆びていったんだ。救い出して漕いでやれば、ギーコギーコって、うれしそうによく走る。
🌼🚲️
リアンは必死で自転車を漕いでいる。トラックの荷台に載せられ、遠い街までゆくあの娘を追って。
彼女をかっさらったら、この花を渡して新しい朝が訪れる場所へ逃げよう、と。
子どもだからって何も知らないわけじゃない。売られてゆく彼女の涙を見ないふりした者達。
リアンは花泥棒。
リアンは自転車泥棒。
そして、あの娘を盗んだ悪党。
最高の肩書きが、今日、彼のものに。
果たしてリアンは、最後の宝を盗めたのか?
数年後、小さな街の教会で、祝福の鐘が鳴り響いた。
~おしまい~
最後まで読んでいただき、ありがとうございました🍀
前から、スピッツの『花泥棒』とユニコーンの『自転車泥棒』をタイトルに入れて、物語を書きたいと思っていて、下書き状態のものを成仏させました。
本当は『花屋の葉子さん』シリーズ内で書こうと思っていたのでした。
春ピリカグランプリがはじまったぞ!🎉
というタイミングのnote界。そちらに出すお話は、一昨日書き終えて、現在、推敲をくり返しているところです。
何度読み返しても直すところが出てきますな😹
5月7日までは、納得するまでこれでもかと推敲を重ねようと思います😽✨️
この物語は、ショートショート修行で書き始め、イラストも久しぶりに描いたので、先に投稿することにしました。