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湯けむり夢子はお湯の中 #9 恋のステップ


 はじめて和真さんと温泉以外の場所にお出かけします。しかも、今回は日帰りバスツアーで。山梨県にあるワイナリーに立ち寄るコースです。

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 おはようございます。湯川夢子です。
 このところ色恋にうつつを抜かして湯が疎かになっているのではないか?というお声、厳粛に受け止めております。

 とはいえ、毎週会っているからといって、私たち、まだ恋人同士でもなんでもありません。少なくとも彼の方はそういう認識だと思います。

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 先週のスパでの一幕。
「温泉では男女別行動になってしまいますが……」という私の発言に対してしばし沈黙があった後、和真さんの答えはこうでした。

「夢子さん、来週は温泉じゃないところへお出かけしてみましょうか?いくら温泉好きとはいえ、たしかに別々になってしまう時間が多すぎましたよね」

 私は軽くパニックになりながら、「そんなこともあれなんですが…その…ありがとうございます」としか言えませんでした。

 実はこれまで、お互いのことについてほとんど話してきておりません。
 行きの車内ではこれから向かう温泉の話ばかりで、帰りは流れてくるカーラジオの心地好さに眠ってしまい、気づけば家から最寄りのコンビニに到着している、というパターンだったのです。

 誠にもって不覚なり。

 初対面の日に少し自己紹介をし合った程度の私たち。湯の話で盛り上がりすぎてしまい、母親同士が友人という安心感からか警戒心などまるでなく、翌週には早速ふたりで温泉にGOしてました。

 念のため、あの日和真さんのお母さまもうちの母も、ぎっくり腰はフェイクであった、ということをご報告しておきます。
 帰りに実家へ立ち寄ると、「どうだった?和真くん、イケメンでしょ」と言いながら、母はテレビの前でサンバ風エクササイズしていましたから。

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 和真さんは私の2コ下の39歳。物腰が柔らかく、落ち着いた雰囲気をもっている方です。

「和真くんて、朝ドラでお医者さん役やってた俳優さんに似てると思うの。
 そういえば、和真くんが中学生のときに一度会ったことがあるんだけどね、まあ礼儀正しくて爽やかな笑顔が眩しくてね。ジャ○ーズに履歴書送っちゃおうかなって思ったくらいよ。ウフッ。
そんな和真くんが未だに独身だなんて。夢子や、これは奇跡ですよ!」

 これまでお見合いに消極的だった私が引いてしまわぬよう、最初は興奮を抑えつつ話していた母ですが、もうワクワクが止まりません。

 私だってそりゃあ、がらにもなく浮かれてますよ?でも、それを母にも彼にも知られたくはありません。うまくいかなかったときのため、保険をついあちこちにかけてしまうのです。難儀なことです。

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 私たちを乗せた大型観光バスは、湖畔にある広い駐車場に停まりました。
 最初の目的地はハーブガーデンです。

 色とりどりのルピナスやコモンマロウが咲いています。種類によってはラベンダーの花も香るくらいに開いており、少し早い初夏の訪れを感じました。

「夢子さんは、ハーブお詳しいんですか?」
「代表的なハーブしか知りませんが、好きです。一時期プランターでミントを育てていて、夏場入浴剤代わりにお風呂に入れたこともあります」
「へえ、それいいなぁ、僕も真似してみようかな」
「おすすめですよ。ミントの香りがお好きなら、気分もスッキリしますし」


 併設されたお土産屋さんへ行くと、ちょうど色んなハーブの入浴剤があったので、あとで和真さんに渡そうといくつか購入しました。
 
 少し離れた売場にいた和真さんが私を見つけ、小さく手を挙げています。アロマオイルやポプリのテスターを手に取る他のお客さん達の間を右へ左へ避けながら、お互いに歩み寄り、合流して外へ出ました。

「夢子さん。ラベンダーソフト、食べてみませんか?」
「ラベンダーソフト?」
「ここに着いたときから、紫色のソフトクリームのオブジェが気になっていて…」

 和真さんの背後には、パステルカラーのファンシーなソフトクリームの売店が。たしかに、のぼりとオブジェもあります。
 振り返り、なはは、と少し恥ずかしそうに笑う彼。

 ひゅるりらとラベンダーの香りの風に包まれ、フラッとよろめいてしまいした。

 こういうとき、本当にズキュンて音、するんですね。

「はい、夢子さんの分」

 私が軽く気絶している間に、彼は紫のソフトクリームを両手に持って戻ってきました。

「ハッ!……ありがとうございます。私の分まで」

「ラベンダー味って、どんなだろう?なんだかドキドキするなぁ。せーの!でいきましょうか?」
「はい。せーの!でいきましょう」
「それじゃ、いきますよ。せーの!」

 ふたり同時にソフトクリームにパクつきます。

「ん~~!」

 わわわ……なんて不思議なお味!本当にラベンダーの香りを食べているみたい。
 ファーストキスがレモンの味に例えられるのなら、これはさしずめ、忘れかけていた恋の感覚を思い出させる、懐かしくて胸がキュッとするお味。それが、ラベンダー味。

「んん~~!」

 そして、追いかけてくる知覚過敏……。
 どうやら和真さんも、ぎゅっと目を瞑り鋭い痛みに悶えているご様子。

「美味しいですね!」
「はい、これ、なかなかいけます!」

 非常にデートっぽい。
 若い頃とは少し違うけど、ちょうどこのくらいの速度がリハビリになって良い。


 これって、恋……なのですよね?
 恋、で間違いないのですよね?
 
 ごめんなさい。夢子、混乱しております。


~つづく~


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!♨️


というわけで、💜🍦紫のソフトクリームのお味、答えはラベンダー味でした!

はそやmさん、ねじりさん、大大大正解でございます!🎉🎉🎉
荒神咲夜さん、ジェーンさん、geekさん、Marmalade さん、ピリカさん、めちゃ面白解答なので、みなさま揃って大正解なのであります!🎶😽🎶

クイズへのご参加ありがとうございました!♨️

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