湯けむり夢子はお湯の中 #4 ラベンダー風呂 【お話】
海沿いの道を法定速度で走る赤いラパン。カーステレオから流れるは、スターダスト・レビューの『夢伝説』。
今日、私は自分で自分の伝説を作るの。夢子伝説のはじまりよ!
♨️
おはようございます、湯川夢子です。とうとう四十になりました。実に清々しい休日の朝を迎えております。
そろそろ目的地のチャペルが見えてくるはず…
え?「風呂は、温泉はどうした」ですって?
ドンウォーリー!もちろん、ちゃんとあとで登場しますよ♪
♨️
青空に映える白いチャペル。なんて綺麗なの。屋根の上の十字架からカモメが翔んだ…。
嗚呼、これまで何回、友人達の結婚式に参列してきたことか…。が、しかし、ついに今日は私が花嫁姿になるのです!相手は誰かって?
「8時からご予約の湯川様でございますね?どうぞ、早速メイクルームへご案内致します」
~1時間後~
「とぉ~っても素敵です、湯川様!もう少しコルセット緩めましょうか?」
「いいえ…遠慮せずもっとキツく締め上げてください!」
「では、遠慮なく」
「ひでぶっっっ!!」
「いかがでしょう?」
アプリコットピンクのチークが、うっすら紫がかった顔色を打ち消そうと必死に仕事してくれております。
一瞬、白目剥いて泡吹きそうになりましたが、もう大丈夫!メイクさんに頷き返し、いざチャペルへ。
パイプオルガンの演奏が厳かに鳴り響くなか、一歩一歩噛みしめるように進むバージンロード。木の床には、ステンドグラスの赤や青が美しく映っていて…感極まって泣きそうです。
「こちらに目線くださ~い!」
パシャパシャッ
「次はブーケに口元うずめて…そうです!素敵です!」
パシャパシャッ
「はぁい、今度は海岸へ移動して撮りましょう」
♨️
『ソロウェディングフォト』
というものをご存知でしょうか?
ご安心ください。
湯川夢子、まだ誰のものでもありません。
四十のときに結婚していなかったら、自分の誕生日には独りで憧れのウェディングドレス着て写真撮ろうって決めてたんです。
おかげさまで本日快晴、絶好のソロウェディングフォト日和となりました。
ロケ地は湘南の海。人目が気にならないと言えば嘘になります。でも、この海岸ではよく見られる結婚式の前撮り風景だと思われているでしょう。
絶妙なタイミングで、アシスタントさんがロングヴェールをフワッと持ち上げ、海風に乗せてくれました。
チャペル(スタジオ)へ戻る道すがら、すれ違う人から「おめでとうございます」と声をかけられるので、私も微笑んで会釈します。新郎は何処?と視線を彷徨わせる人々。いえいえ、夢子のココ(隣り)、空いてますよ!
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後日、データとフォトブックを送ってくれるそうなので、支払いを済ませて、いざ!ひとっ風呂!
今回は海辺のスパリゾート、『Bon bain』さんにお邪魔いたします。
こちらの目玉は、南仏プロヴァンス地方より取り寄せしラベンダーを使ったアロマの湯。しかも、洞窟風呂になっていて、ぐるりと円形に枕があり、寝湯でこれでもかのリラックス姿勢。ドーム状の天井からはラベンダーの花束が吊るしてあり、湯からも上からも香る仕組みとなっております。
素晴らしいですね。こんな披露宴会場があったらいいのに。
ラベンダーの天井を仰ぎ、そっと瞼を閉じた刹那、つつーっと一筋、頬に伝うものが…。
「私、今、すごく幸せ」
♨️
結構なお湯でございました。本日はこのへんで。
Merci beaucoup🍀(メルシー ボクゥ)
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